大久保寛司の輝く経営未来塾2016
第3回講演レポート

「愛される会社」へ投資

人間力や社会性を重視

大久保寛司の輝く経営未来塾2016(主催・沖縄タイムス社)の第4回講座が11月9日、那覇市久茂地のタイムスホールで開かれ、鎌倉投信取締役資産運用部長の新井和宏氏が「プロフェッショナルとは何か」と題し講演した。投資先の企業を決める際には経済的な指標だけでなく、多様な人材の活用や循環型社会づくりの推進、技術やサービスの世界発信など、その企業が手がける事業の社会性を重視する姿勢を紹介した。その上で、社会に付加価値を提供している投資先について「どこまでも支える『あたたかい金融』であることに挑戦したい」と力を込めた。

PICRH20161109_000544.jpg鎌倉投信取締役資産運用部長
新井和宏氏
 企業の価値は最終的に、数字で表現できないものにある。数字は分かりやすいだけに、過信してしまう落とし穴がある。会社の雰囲気や、社員が同じ理念を共有しているかどうかは数値化できない。
 会社は社員を見れば多くのことが分かる。だから僕は投資先の「いい会社」を探す時は現場に行く。投資家として行くと相手は投資してほしいから「お化粧」する。だから突然行くんです。むげに扱う会社と「よく来てくださいました」という会社、反応が真っ二つに分かれて面白い。
 前の勤務先は外資系金融機関のバークレイズ・グローバル・インベスターズ。2007年当時は世界最大の運用機関で200兆円以上運用していた。金融業界の頂点だと思い一生懸命働いたが、ストレス性の病気で辞め、08年11月にリーマンショックの真っただ中で鎌倉投信を起業した。
 起業まで15年間、全部数式で表現してきた。でも(関わる人を幸せにするのが会社の役目とする)伊那食品工業(長野県)や、障がい者を50年以上雇用している日本理化学工業(神奈川県)など「いい会社」で素晴らしい人と出会ったことで、会社の将来は、その会社の数値化できない部分にあると気付いた。
 そんな、人から愛される「いい会社」を応援できる仕組みを創りたかった。リーマンショックでみんな傷つき、「金融機関は冷たい、大嫌い」と思われる中で、「愛される金融機関」を創りたかった。
 いい会社は社員の人間力を高めさせてくれる。その逆は「使い捨て」で、労力やエネルギーを搾取している。そんな会社が増えちゃいけない。だから投資という方法で応援する。お客さまには投資に加え、消費や宣伝で応援してもらう。その仕組みが鎌倉投信そのもので、今では全国1万6千人のお客さまから計240億円を預けてもらっています。
 「いい会社」は「人」と「共生」と「匠(たくみ)」という三つのテーマで選びます。
 「人」というのは人材を生かす会社です。投資先の東証一部上場のIT企業、ハーツユナイテッドグループ(HUG)。社員と登録社員計8千人以上の半数がニートやフリーター、ひきこもりです。
 その会社はシステムの不具合を探す仕事をしているが、繊細で凝り性な日本人に向いている。これを生かしマイクロソフト社に採用された。ニートやフリーターは「できない人」じゃないんです。しかもHUGには社会貢献のつもりがない。なぜか。社員を戦力だと思っているからです。
 障がい者雇用も同じ。頼んでもやらない、難しいことはできない-というレッテルを貼る。でも色眼鏡を外せば優秀な人は必ずいる。いい会社はそれを見抜く力がある。
 人口は減り、高齢化は進みます。いろんな方々が戦力となり、社会をつくらないと22世紀を迎えるのは難しい。だから、「人」への投資を使命だと思って活動している。
 これは人材の多様性マネジメントの本質的な部分。高度成長期のように「同じ事を効率よくやってくれる人」だけではなく、多様な人材を雇用する必要がある。その最たるものが障がい者雇用。人それぞれ違う障がいや合併症、症状に対応できるか、経営者がそういう視点で考えているかどうか-が、すごく重要なポイントになってきました。
 もう一つのテーマが「共生」。循環型社会をつくってくれる会社、環境問題や第1次産業を何とかしてくれる会社です。農業では耕作放棄地をレンタル菜園にしたマイファームという会社がある。また、トビムシ(東京)という林業再生の会社に投資している。
 トビムシは09年の創業以来ずっと赤字だが、僕らは2億円投資している。決算書が黒字でお金を貸すことは銀行でもできる。僕らは、赤字でもこの産業を支える、という気持ちです。彼らしかできない林業再生を、応援する金融であることに決めた。
 あとは「匠」。HUGのように、日本の技術力やサービスを世界へ発信できる会社を応援しようと決めています。
 鎌倉投信を起業する時に恩師に言われました。「どんなに優秀な人が起業しても、ほとんどの企業はつぶれる。これは能力の問題じゃくて、社会が必要とするか。ただそれだけだ」。私も社会に必要とされるような会社になりたい。どこまでも支える「あたたかい金融」でありたい。プロとしてできるかどうか。これからもずっと挑戦します

世の中を良くする発想

PICRH20161109_000555.jpg人と経営研究所所長
大久保寛司氏
 人は人との出会いで運命や人生が変わる。「人生が変わってきた」と感じる時は過去とは違う人と付き合っているはずだ。発想や価値観の軸が変わる。穏やかに温かく変わった人は「私利私欲」から反対の軸にシフトしている。
 善人だからうまくいくわけではない。世の中は強い者か知恵のある者が勝つ。でも幸せになるかどうかは別だ。力と知恵と商魂があれば商売は成り立つが、周りの人をどれだけ幸せにできているかは、まったく別の軸足だ。
 金融の世界で日本一だった新井氏が鎌倉の古民家で小さな投信をやりだして、「この世の中にいい会社を増やしたい」と夢を語る。私は投資の話が大嫌いだった。でも新井氏と話して「こんな金融機関があったのか」と感動した。この会社が伸びることは世の中を良くすることだと思った。
 ファンドマネジャーはパソコンしか見ないが、新井氏は社員一人一人を見る。融資した後も、いろんな観点からアドバイスする。業界では超異端児。「そんなことをして何になる」という、もうけたいだけの人たちとは軸足が違う。
 鎌倉投信も普通の金融機関もお金が中心にあるが、その奥にあるエネルギーの質が違う。通常はさらにお金を増やすというエネルギーだが、鎌倉投信には世の中を良くする、幸せな会社を作ることを手伝うというエネルギーだ。
 個人も同じ。どんな思いで生きているのか、中心にあるエネルギーの質の深さや透明感、あたたかさが人生を決める。濁っている人は成功しない。不幸せが拡散していく。
 このセミナーでたくさんの人に話してもらってきたが、聞くだけでは「ゼロ」。そこから何をして、どんな生き方をするのか。何もしなかったら知らないのと一緒。ぜひ学んだことを実践してほしい

フロア質疑
思いの強さ 引きつける 地元の良さ 気付きにくい

フロア 近年、ブラック企業や過労死という単語を耳にする。どうしてこのような状況がなくならないのか。
新井氏 カリスマ性が高く、リーダーシップがある経営者は部下に対して自分と同じ、またはそれ以上の仕事を求めてくることが多い。彼らが自分を基準に物事を測る限りなくならないのではないか。いい会社が増えればそういう企業が減っていくとは思う。
大久保氏 多くの経営者が目先の売り上げや利益に重点を置く。社員も大事なのだろうが、優先順位が低い。その中で自分がどう生きるのかが大事。どうしようもないと思わず、理想へ向かって行動することで組織を進めてほしい。
フロア 投資を検討する企業や投資した企業と、どう信頼関係を維持していますか。
新井氏 投資先ともお客さまとも信頼関係が全て。人と人との付き合いなので、その人が困っていること、悩んでいることに対して何か役に立てないかを考えている。
大久保氏 「いつかは鎌倉投信に投資してもらえるような会社になりたい」という企業家もいた。普通は金利の安いところへ行きますからね。素晴らしい発想ですよね。
フロア 地方でオンリーワンの商品を開発するために、人、モノ、金、情報をどう集めればよいか。
新井氏 地元の良さを分かっていないのでは。視野を広げ、いろんな人に「聞く」ことが大事。地方には支え合う文化があるなど社会資本は都会より多いが、その場にいる人はなかなか気付きにくい。
大久保氏 人、モノ、情報、金は集まるところにどんどん集まる。思いの強さや深さが引き寄せる力になる。何かをやろうとすれば阻害要因は必ず出てくるので、人のせいにせず、それを乗り越えるだけの情熱と知恵が必要だ。
 地方再生や商品開発の先進事例を学び、同じようにできた人はほとんどいない。つまり、やり方じゃなく、やった人の思いやエネルギーだ。そんな深いエネルギーの持ち主になった時に、周囲が「君がそこまで言うなら」と、どんどん輪が広がっていく。これが一番大事だと思う。
フロア 投資の失敗談があれば教えてください。
新井氏 1社つぶれたことがある。支えるのをやめたのは、社長が社員を裏切ったから。投資資金の回収はしなかったが、追加投資をやめた。メインバンクに貸しはがしを受け、倒産した。社長の自己破産まで付き合った。誰もが避けたい仕事です。でもお客さまには日ごろ「逃げない」と言っている。言っていることとやっていることが違えば、人は誰も信じないからです。