大久保寛司の輝く経営未来塾2016
第2回講演レポート

障がい者に働く誇りを

未来つなぐ「貴重な人材」

大久保寛司の輝く経営未来塾2016(主催・沖縄タイムス社)の第2回講演会が7月13日、那覇市久茂地のタイムスホールで開かれた。食品容器の製造販売などを手掛ける「ダックス四国」(高知県)の且田久雄社長が「誰も辞めない 魅力のある会社づくり」と題し講演。全国で障がい者を正社員化してきた経験から、障がいの有無にかかわらず活躍できる職場づくりが、好業績や仕事への誇りを生んでいる事例を紹介した。国の将来的な就労人口の減少に触れ、「障がい者雇用は国と企業の未来につながっている」として、障がい者への理解と人材活用を促した。

PICRH20160713_000461.jpgダックス四国社長
且田久雄氏
 高知県の社会福祉施設の立ち上げに加わり、20歳から知的障がい者と関わりを持っている。同施設を退職した31歳の時、田舎は障がい者の働く場所がないから自分でつくろう、と決めた。1986年にダックスを設立し、95年に高知でダックス四国をつくった。
 ダックスの親会社はエフピコグループ(広島県)。皆さんが毎日使う食品トレーや透明パックを作っている東証1部上場企業だ。売り上げは1700億円強、経常利益150億円と、もうかっている。そこが現在375人の障がい者を、基本的に週40時間労働の正社員として雇っている。
 正社員で採る理由は彼らの「働くプライド」を育てるため。働くことで会社へ貢献できて、利益が上がることをどう教えるか。具体的には工場の生産効率や良品率、試算表をグラフ化して教え込む。プラス(利益)が出たら、このプラスが社員のボーナスにこう反映する、と言い続ける。それを30年間やっている。
 全社員からものづくりへの意見ももらう。「誰がこれだけ改善の報告をしてくれた」と発表し、年に2回表彰する。自分の意見で仕事がしやすくなったり、安全になったりする。損益も包み隠さずに教えていく。
 そうして10年たつと、どんな重度の知的障がい者も、もうかっているかどうかが分かってくる。そういうことで彼らが誇りを持つ。障がい者には分からないと判断することが健常者の差別であり、傲慢(ごうまん)だ。
 ダックス四国で働く障がい者は48人。ほぼ知的で、重度が8割だ。業務の一例はスーパー店頭で回収したトレーのリサイクルで、最も重要なより分けをやっている。色や「再生できる・できない」など、瞬時に5種類に分ける。これを1日8時間やっている。
 障がい者は、健常者が20分で音を上げるような作業を長時間こなす。弁当容器の製造作業では通常、健常者が1日3千個のところ、彼らは4800個やる。さらに毎日目標を発表して、隣同士で競っている。
 トレーニング期間は長くて3カ月。しかも障がい者が障がい者に教えている。健常者が横に付くこともない。非常に効率がいい。
 果物の検品もやる。6カ月かかって、手の感覚で中身が熟しているかどうかが分かるようになった。「腐っていて、お客さまが食べたときにどう思うか。嫌でしょう」という話をきちんとすると、分かってくれる。
 ニンジンの検品で、重量を量ってラベルを付けて出荷する業務がある。重度の知的障がい者が目盛りや数字を読むのは難しいが、デジタルはかりを使うことで「ビジュアル」で読み取り、できるようになる。
 ダックス四国は初年度から黒字。「障がい者を使って赤字は当たり前」という発想だと事業は進まない。生産効率や品質、作業導線などを考え、健常者を付けず、助成金を頼らず、障がい者だけでできるようにした。黒字だからこそ働く場所も機会も拡大された。
 うちではあえて、ほかで就業困難だった重度の知的障がい者を雇う。彼らは生活が100パーセント会社になる。会社で褒められ、けんかして、給料をもらい、飲み会や社員旅行へ行く。きちんと育てると、強い愛社精神を持つ。休まないし、辞めない。健常者だけの工場と比べクレームも少ない。会社が潤うから雇う。そんな逆転の発想をすると、障がい者の労働市場は宝の山だ。
 その一方、保護者を育てる必要がある。「うちの子は障がい者だからできない・駄目」ではなく、「信念を持って収入を得て暮らしてほしい」と強く希望してほしい。学校の先生は保護者の意識を変えていくことに全力を尽くすべきだ。
 障がい者も社会を構成している。「支えてあげる・守ってあげる」だけじゃない。彼らは「できる」。もっと働いて、会社の戦力にならないと駄目だ。「できる」「できない」は障がい者を受け入れる企業の力量や努力で変わってくる。
 国の就労人口が減る中、18歳から60歳まで400万人弱の障がい者がいて、うち60万人しか働いていない。しかも、ほぼ短時間就労。彼らに働いてもらえば、企業も国も助かる。障がい者雇用は未来につながっている。「貴重な人材」を活用するマニュアルとノウハウがある企業が生き残っていく。

雇う側の意識変革必要

PICRH20160713_000477.jpg人と経営研究所所長
大久保寛司氏
 いい会社は人が辞めない。そして共通しているのは、一人一人が主体的に動いている。受け身・指示・命令ではなく、主体的に動くと人は生き生きと輝く。仕事を通して世の中に役立っているという実感を持っている。
 ダックス四国では知的障がい者が目標を設定し、互いに競い合う。作業内容と本人のキャラクターが合うと健常者以上に能力を発揮する。健常者が30~40分で飽きることを5~6時間と続けてやってしまう。
 ただ、どんな障がい者も、喜怒哀楽は健常者と変わらない。目標達成時には何とも言えない笑顔が出るはずだ。認められたらうれしい。叱られたらしょげる。特殊な目で見るのは、真実を知らないからだ。
 且田氏の話を聞くと、障がい者は感情をストレートに表現できないだけで、思いの本質は同じだと再確認できる。認められたいし、やりがいがある仕事がしたい。そしてやりがいを感じられれば、人は辞めることはない。
 大事なのは彼らの能力の見極め方と活用法を考えること。「障がい者に数字認識はできないから、薬品の配合やはかりの扱いは無理だな」と思えばそこで終わり。でも、絵で認識させるなど、周りが知恵を出せば働ける。
 仕事への誇りの育て方も且田氏の知恵と工夫。継続するための情熱もあった。「絶対分かるはずだ」という信念をベースに、誰もが障がいの有無に関係なく認められる客観的な仕組みをつくった。障がい者にも考える力があるし、自分で考えたことはやる。知恵と情熱、相手への理解がないと難しい。
 雇用を受け入れる側の意識の変革も必要だ。当初は戸惑うかもしれないが、知恵で何とでもできる。知らないことは罪。障がい者を「知る」ことの大事さを理解してほしい。

フロア質疑
最低限自立あれば雇える 地域の偏見誠意持ち説得

フロア 会社を運営していく上で、地域社会の偏見や差別はなかったか。
且田氏 あった。工場建設時、障がい者が働くと聞き、地域住民の3割以上から「暗い」「怖くないか」という反対の声があった。とにかく相手の目を見て、お話も聞いて、誠心誠意お願いするしかない。3カ月通って、しつこさに折れてくれました。
大久保氏 説得の本質は、相手の話を聞いて理解すること。「正しいこと」だから受け入れられるわけではなく、まずは相手を理解し、その次に「こういうことをやりたい」です。このベース抜きに、地元の方が新しいことを納得することはない。
フロア 障がい者雇用に当たり、社員の選考ポイントはどこか。
且田氏 知的障がい者が好きで、中でも重度のダウン症が一番好き。「一緒に働いたらおもしろそう」で採用してしまう。でも、就労継続支援B型事業所がたらい回しにするような子でも、3~6カ月で安定する。最低限の身辺自立ができればいい。
フロア 障がい者の給与、年収は。
且田氏 平均200万円弱。障害基礎年金もあるので250万円や300万円を超す人もざらにいる。
フロア 障がい者のキャリアアップの方法は。
且田氏 万全な評価制度を作っている。昇給制度もあり、主任、主任補佐、係長など役職手当も付く。役職は彼らの目標になる。現在、障がい者の管理職が15人いる。仕事ができるかではなく、いかに周囲の仲間と助け合える心があるか、配慮ができるか-という観点で管理職を選ぶ。
フロア 雇う側の姿勢はどうか。
且田氏 福祉関係者は入れない。健常者の社員に対し、「アスペルガー症候群はこうだ」とか、障がいについての講義もしない。障がい者が同僚だという感覚をどう持たせるか、という仕掛けで、障がい者が主任や係長になるのはそういうことだ。一番大事なのは想像力。こういう言葉を発すれば相手はどう思い、そう思ったことによってどうなるか。障がい者にも健常者にも、三つから四つ先の反応を考えて行動するよう言い続けている。
大久保氏 通常の企業にも必須不可欠だ。そこを考える力があれば組織は変わる。
フロア 障がいがある子が成人するまでに身に付けたらいいスキルはあるか。
且田氏 何にもない。企業が受け入れる土壌は僕らがつくっていく。家庭はどんな子でも「働いて生きる」という意識を持たせてほしい。何でもできる。キーポイントは「できると思っていること」だけだ。