大久保寛司の輝く経営未来塾2016
第1回講演レポート

バイト・顧客満足 好循環

情熱引き出す仕組み次々

大久保寛司の輝く経営未来塾2016(主催・沖縄タイムス社)の第1回講演会が5月11日、那覇市久茂地のタイムスホールで開かれた。飲食店「塚田農場」などを展開している「エー・ピーカンパニー」の大久保伸隆副社長が「バイトを満足させながら、顧客の感動を生む」と題して講演。従業員の満足と顧客の満足は店の売り上げアップを通じて両立するものだと説いた。さらに、従業員の情熱を引き出すためのユニークな取り組みをいくつも紹介。ホールスタッフから始めて副社長になった「バリバリの現場上がり」の視点で会場に訴えた。

PICRH20160511_000331.jpgエー・ピーカンパニー副社長
大久保伸隆氏
 人が足りない。人が育たない。人材で困ったことはありますか? 思うように共感してもらえないことは今もあるが、僕なりの経験をお話ししたい。
 もともとは大手不動産会社にいたが、約1年で退職して23歳でエー・ピーカンパニーに入った。ホールスタッフから始めた「バリバリの現場上がり」。今も店長として定期的に店に立っている。
 エー・ピーカンパニーは「食のあるべき姿の追求」を理念に飲食店「塚田農場」など203店舗を国内外で展開している。食肉処理から加工、店舗運営までやっている。
 社内では、従業員の9割を占めるアルバイトのために「ツカラボ」という就活(就職活動)支援をしている。「体験ラボ」では、鶏を絞めたり焼酎用の芋を掘ったりする。体験を通じて「自分の言葉で話せる」ようになることをゴールにしている。
 さらに、アルバイトをしながら就活をしてもらえるように、外部のプロによるキャリアセンターを社内に置いている。このおかげで、アルバイトの在籍期間は1・87倍に伸びた。大学3年生になってもシフトを減らさないでいい。
 エー・ピーカンパニーのapは、オールウィン(all win)プロデュース(produce)の略。勉強させたい大学、就活したい学生、効率よく採用したい企業の利益が一致する。
 企業が従業員を維持するためには、応募を増やすか離職を減らすか。応募を増やすには媒体費用がかかるし、離職を減らすには取り組みに時間がかかる。でも、いい会社をつくれば応募も来るし離職も減ると思う。
 店長時代には、従業員を生き生きさせる経営戦略のヒントを培った。従業員の満足には、やりがいや仲間意識、成長実感といった精神的価値と、給料という経済的価値の二つがある。実現のためには売り上げを出すしかない。売り上げを出すためには顧客を満足させるしかない。そう気づいて「従業員感動満足(EIS)と顧客感動満足(CIS)を同時に実現できる戦略」を考えた。
 「塚田農場」ではそれを実践している。一つは、値引きするかわりに同額のサービスを提供する取り組みだ。地鶏の鉄板焼きを残す客がいれば、玉ネギとポン酢であえて別の味を楽しんでもらう。鉄板でガーリックライスを作り、残った脂まで味わってもらう。ガーリックライスの原価は12円。12円値引きするよりもお客さんに喜んでもらえるし、従業員にはオーナーシップを持ってもらえる。
 ほかに、1年くらいかけて考えたポイントカードがある。来店してもらうことを「出勤」と呼び、来店回数に応じてカードの役職を7段階まで昇進させる。主任から始まって一番上のポストに行くには51回来店しないといけないが、2千人以上が達成している。416日連続で来店した常連客もいる。ポイントカードの裏に従業員が名前と日付を書き入れるようにしたところが「EIS=CIS」の工夫だ。
 いずれにせよ、僕が店にいない前提で価値をつくっていかないと店長の仕事から一生抜けられない。そして僕の役割は、従業員のポテンシャルを見極めて最適な場を準備してあげること。4年前に上場してからは、本社を整えすぎると結果的に現場の情熱を奪ってしまうと分かった。それからは、整えたものを崩すことをしている。
 現場に丸投げするのではなく、まずは人間性と会社の論理を結び付けてもらう。そういう型をある程度教えるから、情熱を持った「型破り」な人材が生まれる。

人材育成 言葉より実行

PICRH20160511_000325.jpg人と経営研究所所長
大久保寛司氏
 人は何のために働くのか。多くの人は「幸せになるため」という答えに行き着く。
 私は15年間以上、数々の素晴らしい企業を回り素晴らしい学びを得てきたが、そこで働いている人は生き生き輝いて幸せそう。当然、職場の雰囲気もいい。売り上げも例外なくいい。
 でも、「雰囲気を良くしろ」と企業のリーダーが従業員に言っても良くはならない。リーダーとは、理想を言葉で語るのではなく実行できる人のことだ。「笑顔で働け」というのではなく、笑顔で働ける職場をつくること。「協力しろ」ではなく協力できる職場をつくること。
 「エー・ピーカンパニー」は東証1部に最短期間で上場を果たした。社員を大事にした上で経営としても成功している企業の一つだ。仕入れ担当の従業員は漁船に乗ったり養鶏場で鶏を絞めたりして食材を知る。彼らも、店舗の従業員も、働いていて楽しいと口をそろえる。客に出す料理がよく、サービスが高く、アルバイトも生き生きしている。
 大久保伸隆氏は従業員一人一人に見事「育ってもらって」いる。リーダーの役割として、「育てる」のではなく「育ってもらう」ための環境をつくっている。
 エー・ピーカンパニーが運営する飲食店「塚田農場」を訪れた時、26歳だという店長に会った。「スタッフの教育で一番気を付けていることは何ですか」と聞いたところ、「教えないで考えさせることですよ。時々ヒントは出しますけど」という答えが返ってきた。大久保氏の理念を店長もきっちり受け継いでいる。
 「うちの店で店長を3年やったら絶対に成功できる」。そんな人材を大久保氏は育てている。

フロア質疑
感謝されるサービス目指す あいさつ・掃除 気付く力養う

フロア アイデアは1人で考えているのか。それともチームで動いているのか。
大久保伸氏 ケース・バイ・ケースだが、得意な分野は1人で、そうでない場合はチームで考える。情報は本やテレビから入手する。25歳から1日に最低1冊は本を読むようにしており、今では習慣化している。強制的に勉強をする環境をつくっている。興味のある人のメールマガジンやブログがメールで届くようにして欠かさず見るようにしている。
大久保寛氏 多読するとヒントがたくさん出てくる。アイデアはいろいろな情報の組み合わせから出てくることが多い。その情報を日ごろから集めている。
フロア 入店から3カ月間を笑顔、あいさつ、掃除に絞って教育する理由は。
大久保伸氏 やろうと思えばすぐできることだから。能力に関係がないので、やっていなかったらすぐに指摘ができる。笑顔、あいさつ、掃除を続けていれば、何げない日常の中で普段との違いに気付くことができる。お客さまの表情を読み解くこともできる。
大久保寛氏 あいさつをすれば、相手のモチベーションが分かる。コミュニケーションとしてあいさつは本当に重要。さらに掃除は気付く力を養う。
フロア お客さまをよく観察しろと教育しているが、その意図は。
大久保伸氏 サービスに対するお客さまの期待は常に上がっていく。期待に応えられないとすぐに飽きられる。そこで細かなリニューアルが常に必要になってくる。リニューアルには、お客さまのわずかな変化に気付くことが大事。「商品を出した5秒後を見ろ」と社員によく言っている。サービスを受けたお客さまの表情がよく分かる。お客さまのことが分かるようになってくれば、どうやったら喜んでもらえるか考えるようになる。そこから勉強が始まる。「お客さまにいかに来てもらうかではなく、どのような思いで帰っていただくか」が大切だとも言っている。サービスに感動したお客さまはお金を払ったことを忘れてお礼を言う。逆に感謝されるサービスを目指している。
大久保寛氏 社員がここまで頑張れるのは、彼が言うから。メッセージは内容ではなく、誰が言うかで決まる。アルバイトや社員らスタッフが彼を尊敬している。
フロア ルールが少なく自由な雰囲気の会社だ。
大久保伸氏 企業文化だと思う。ただ、まだ完璧ではない。状況によってマニュアルは作る。
大久保寛氏 理想はマニュアルがないこと。でもその前提がある。価値観などのベースが共有化されていないと理想通りにはいかない。ベースがないのに自由にしたら崩壊してしまう。マニュアルがいいとか駄目とかいう議論は誤りでケースによって違ってくる。