見た 学んだ 久米島の夏

 沖縄こども環境調査隊2015のシンポジウム「地球の声を伝えよう~沖縄の固有種と自然環境~」(主催・沖縄タイムス社、共催・沖縄美ら島財団)が5日、那覇市のタイムスホールで開かれた。7月に活動をスタートさせた隊員たちは、沖縄本島で事前学習を重ね、7月28~31日にかけて久米島を視察。固有種にあふれる久米島の森と川、そして海につながる生態系や人間とのかかわりについて学び、調査した。集大成となるシンポジウムでは「身近なところから環境を守り固有種を守っていく」と力強く宣言し、自主的に取り組むことを誓った。久米島で調査を続ける専門家の講演もあった。協賛は沖縄海邦銀行、環境ソリューション、オキナワマリンリサーチセンター、沖縄コカ・コーラボトリング、我那覇畜産。(順不同)

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「環境について学んだことを発表します。みなさんも一緒に考えてみませんか!」


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基調講演

佐藤文保氏 久米島ホタル館館長
生態系 崩壊の危機

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 久米島は最近になって、オリジナルで面白い生物がいると知られるようになった。今回、島に視察に来た「こども環境調査隊」の体験と合わせて報告したい。

 久米島にはオキナワコキクガシラコウモリとリュウキュウユビナガコウモリの2種類が生息している。オキナワコキクガシラコウモリは沖縄諸島と宮古島にだけ生息していたが、残念ながら森が激減した宮古島では絶滅してしまった。久米島でも絶滅寸前だ。

 コウモリは夜になると洞穴を出て、ガなどの小さな虫を食べる。洞穴に戻ってくると大量にふんをする。そのふんをクメカマドウマやクメジマヒモヤスデが食べ、それらをウデナガマシラグモなどが食べる。洞窟内で食物連鎖が成り立っている。

 今から40~50年前まで、久米島にコウモリは千匹前後いたが、今は数十匹だ。その激減が洞窟の世界の生態系を狂わせている。

 久米島はかつて名前のとおり米の島だった。白みを帯びたわき水のことを山のくみじると呼んでいた。くみとは米のことで、この水を田んぼに引くと豊作になるといわれていた。


PICKH20150920_A0016000102S00006.jpg佐藤館長の話に聞き入る来場者 一方で、久米島の童歌では、山のくみじるとはクメジマボタルのことを指す。稲の実りがいい年にはものすごいホタルの光が見られたというのがその由来だ。お年寄りに聞くと、かつてのホタルの光は、「五枝のマツ」がクリスマスツリーのように光るほどだったという。

 クメジマボタルは琉球列島で唯一、幼虫時代に水中で生活するホタルで、巻き貝のカワニナを食べている。クメジマボタルはクメジマミナミサワガニに食べられる。ミナミサワガニはキクザトサワヘビに食べられる。洞穴と同様に固有種の食物連鎖であり、久米島の豊かな生物多様性を象徴している。

 久米島も土地開発などで赤土が流出し川を汚した。ホタルのえさとなるカワニナが減少し、ホタルも絶滅寸前となった。

 久米島の豊かな生物多様性を守ろうと2006年に島の子供たちとホタレンジャーを結成した。ビオトープも造った。その活動は今も受け継がれており、今回の「こども環境調査隊」も賛同してくれた。彼らは森を探索し、真謝海岸のごみを回収してくれた。海で白化したサンゴも観察した。

 自然が回復し、「自分たちの時代が一番ひどかった」と子や孫に言えるような時代になればいいと思う。みんなで一緒になって沖縄の豊かな海を取り戻すために協力してほしい。


地球 みんなのもの

儀間瑞季(古蔵小5年)
高村ゆず子(座安小6年)

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 久米島に行くまでは、自然が豊かで環境問題なんて少しもないと思っていました。実際に行ってみると、確かに自然は豊かだけど環境問題もありました。

 久米島には、沖縄島にはいない生き物がたくさんいます。代表的なのがクメジマボタルです。時季がずれて成虫は見られませんでしたが、幼虫は白瀬川でみることができました。PICKH20150920_A0016000102S00015.jpg久米島の夕暮れの浜はとてもきれいでした!

 そして、鍾乳洞ヤジヤーガマで見たクメトカゲモドキは沖縄島にいるクロイワトカゲモドキと違い、目の色が黄色で、背中の模様が四角をたてに並べたような形が特徴です。



PICKH20150920_A0016000102S00014.jpg このように、自然豊かな久米島ですが、その反面、汚れたところもありました。観察して気が付いたことが三つあります。

 一つ目は、良いことも悪いこともつながっているということです。海にサンゴを見に行ったとに、足を踏み入れるまでは遠くから見るととてもきれいな海に見えました。でも、実際はたくさんの赤土が流れていました。

 二つ目は、身近な自然についてです。以前は、身近な自然を大切にすればいいと思っていました。でも、真謝海岸でのごみ拾いを通して、最近のものから昔のもの、日本のものから外国のものまでさまざまなごみがありました。遠くの自然も守らなければならないことに気付きました。
PICKH20150920_A0016000102S00016.jpg海中でいろんな熱帯魚に出会いました!

 三つ目は、周りの生き物が固有種を支えているということです。白瀬川ではクメジマボタルを観察しました。クメジマボタルの幼虫が食べるのは、普通種の巻き貝カワニナです。普通種とは身近にたくさんいる生き物のことです。

 でも、白瀬川からカワニナがいなくなったら、クメジマボタルもいなくなってしまいます。普通種も守らなければいけないことが分かりました。私たちは自然と生き物のつながりを知ることができました。

 自然を守るために私たちが考えたことは二つあります。一つ目は、今ある環境を汚さないように、まずは身近なところを掃除することです。

PICKH20150920_A0016000102S00017.jpgヤジヤーガマでコウモリを中心とした生態系を学ぶ隊員ら 二つ目は、物に対してのありがたみや人と自然のかかわりから目をそらさないようにします。いらないものをすぐに捨てるのではなく、本当にいらないのかを考えます。また、物を買う時には、本当に必要かどうかを考えて買いたいと思います。人が地球の持ち主ではありません。自分たちが生活しつつ、自然も大切にしていかなければなりません。

当たり前こそ大事

畔上英士(宮森小6年)
長島由奈(安岡中1年)

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 私たちは、人は生き物とどのように接すればいいか考えました。生き物の進化と適合性について注目してみました。

 久米島のホタル館で沼と川の観察をしたときに両方の場所で全く姿の違うエビを見ました。沼のエビは動きが遅く、細い体つきです。沼は流れがなく、海に流れる心配がないため、足や体が細く、動きがゆっくりになるように進化したということに気付きました。一方で、川のエビは動きが速く、体ががっしりとしていました。  

PICKH20150920_A0016000102S00020.jpgカヤックでの調査に気合も入ります!
 白瀬川で見たクメジマボタルの幼虫は、川の中で生活するために進化してエラができました。えさとなるカワニナはきれいな川にだけ生息しています。

 人が川を汚すような行為をするとカワニナが減って、クメジマボタルも減ってしまいます。ホタル館で見たクメジマカブトも、人が自然に手を加えてしまったことで減ってしまいました。希少な生き物をもっと大切にしなくてはなりません。


PICKH20150920_A0016000102S00019.jpg では、当たり前にいる普通種は大切にしなくていいのでしょうか。私たちは、普通種も大切にしたほうがいいと考えます。その理由は三つあります。

 一つ目は、たくさんいる生き物でも環境が変わったり、捕り過ぎたりすると、絶滅してしまうということです。

 二つ目は、一種でも絶滅すると生態系が壊れてしまうということです。リュウキュウアユが絶滅したことで、リュウキュウアユの周りにいた生き物にも、減る生き物と増える生き物が出てきました。減る側は、結果的に食物連鎖の頂点にいる生き物まで減ってしまいます。増える側も、どんどん食べることで藻が減ってしまい、結局、減ってしまうのです。PICKH20150920_A0016000102S00021.jpg久米島島内での学習発表で本番に備えました!

 三つ目が、生き物には考えや感情があると考えるからです。夜のイーフビーチで見たムラサキオカヤドカリは、光を当てるとじっと止まって、貝の中に隠れていました。一方で光を当てると逃げ出す個体もいました。このような個体差があるということは、考えや感情があることだと思いました。


PICKH20150920_A0016000102S00022.jpg森の探索では希少なキノボリトカゲを発見 落ちているごみを拾う、自然の物を壊さない、使わない電気は消す、などの当たり前のことでも実行することが大切だと思いました。そして、当たり前にいる生き物も大切にしなくてなりません。生き物と接する時は、生き物の暮らしや生き方を観察したことを踏まえながら、生き物のことを一番に考えないといけないと考えました。


赤土は人間の責任

當銘舞子(美里中1年)
名嘉山栞(安岡中1年)

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 私たちは赤土に興味を持ちました。なぜ赤土かというと、美ら島自然学校(名護市)での学習会の帰り道、土砂降りによる赤土で、近くの海が汚れていたからです。

 赤土流出は、人が木を切り、赤土をせき止めるものが少なくなったり、自然災害の台風や大雨、地震などが原因です。この赤土流出により、生き物たちは、大きなダメージを受けます。リュウキュウアユや久米島の固有種であるクメジマボタルもそうです。PICKH20150920_A0016000102S00025.jpgあでやかな久米島紬の着物にもトライ!

 クメジマボタルは去年4匹しか確認できなかったそうです。ホタレンジャーという、島の子どもたちが参加する取り組みで、川の清掃や植樹などをしたところ、今年は800匹も確認できるようになったそうです。そして、クメジマボタル以外にも数多くのエビやオオウナギなどがいました。

 赤土は、川だけではなく海にも影響があります。生き物のゆりかごといわれる『藻場』が赤土の濁りにより光合成ができなくなって、枯れていきます。
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 私たちは、久米島に来るまでは「赤土は悪い土」としか思っていませんでしたが、久米島に行って良い面もあることがわかりました。

 ユイマール館では、赤土を久米島紬(つむぎ)の染料として利用しています。糸の材料には、琉球多蚕繭(たさんけん)とフヨウツクバネという2種類の蚕が使われています。この糸を使い赤土などで染めて、きれいなピンク色を出しているのです。また、久米島紬だけではなく、沖縄島で赤土はパイナップル畑の土壌として利用されています。PICKH20150920_A0016000102S00026.jpg名護市の源河川でサワガニと遭遇!

 私たちが考えた案を皆さんに紹介します。一つ目は「人間が木材のために利用するための木」を植え、木材が必要な際に使い、自然に生えている森の木は使わないというものです。

 二つ目は、木を切る長さや、木を切る場所を法律で規制して、森や林を守るという案です。もちろん、これらの案には欠点もあり、その上、私たちの力だけでは実行できません。

 私たちが沖縄島や久米島の学習を通して分かったことは、主に三つです。一つ目は、赤土流出により生き物が被害を受けている。二つ目は、環境は生き物と密接な関係にある。

PICKH20150920_A0016000102S00027.jpg自然が生んだ芸術「畳石」に感動しました 三つ目は、赤土は良いことにも使われていますが、赤土流出という悪い面のほうがはるかに多い、ということです。赤土流出の原因をつくったのは人間であり、赤土流出を防ぐために活動できるのも人間です。川がきれいになれば海もきれいになっていくと思います。



自然に手加えすぎ

齋藤健太(読谷中3年)
桜井久玲愛(港川中1年)

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 私たちは、地域の自然だけをきれいにしていればいいと思っていました。久米島視察でその考えが変わりました。

 真謝海岸のごみ拾いでは、ペットボトルやお菓子のごみ、殺虫剤の空き缶、テレビなどがありました。ごみは、フィリピンや中国などの外国から流れ着いたごみもありました。PICKH20150920_A0016000102S00010.jpg海岸に漂着した大きな廃材、取ったど~!

 キャップを背負ったヤドカリもいました。そのヤドカリを食べてしまった中型の生き物が病気になってしまい死んでしまうかもしれません。

 ヤドカリも体を全部隠す事ができずに敵に狙われやすくなってしまいます。ごみが多い事で生き物たちが困っている事が分かりました。

 ヤジヤーガマで私たちは、懐中電灯を持ち、舗装されただけの歩道を歩きました。足元にコウモリのふんがたくさんあり、私たちは「汚い」と思いました。しかし、ホタル館のスタッフの話を聞き、コウモリのふんから始まる食物連鎖があることを知りました。


PICKH20150920_A0016000102S00009.jpg ヤジヤーガマでは観光目的で遊歩道を造る計画があったそうです。しかし、それで観光客が増えると、生き物たちを懐中電灯などで脅かし、「汚いから」と言って、コウモリのフンをきれいに掃除してしまうかもしれません。そうなると洞穴内のコウモリのフンがなくなってしまい、生態系が崩れてしまいます。PICKH20150920_A0016000102S00011.jpg蚕を使った久米島紬の糸づくりは楽しかったなぁ

 赤土が露出する原因はいくつかありますが、その一つが人間による森林伐採です。海や川にある海草に赤土がかぶさり、その草が光合成出来なくなり、それを餌とする動物が餓死するなどの影響がある事を久米島のシンリ浜で聞きました。

 では、なぜこのような事が起きるのでしょうか。海のごみ問題は、人間が砂浜や海に直接テレビや産業廃棄物などを捨てる事や、海で食べた物を所定の位置に捨てずに海岸や砂浜に捨てる事が原因です。

PICKH20150920_A0016000102S00012.jpg大量の漂着ごみを回収し、さわやかな汗を流しました ヤジヤーガマの食物連鎖が崩れるのは、橋のような遊歩道を造り、観光目的で、洞穴内のコウモリのフンを掃除し過ぎる事です。赤土問題は、木を切り過ぎたり、植樹した木をきちんと管理しないからです。これらの共通点は、人間が自然に手を加えすぎる事です。

 では、私たちにできる事はなんでしょうか。私たちは「ごみをポイ捨てしない」「落ちているごみを見つけたら拾う」「植樹ができる体験には、積極的に参加する」「生き物観察をする時は生き物にストレスを与えない」という事を進んでやっていこうと思います。