守り抜こう 島(ここ)だけの命
やんばる・奄美で誓った夏
シンポジウム 地球の声を伝えよう ~自然を守る取り組み~

 沖縄こども環境調査隊2018のシンポジウム「地球の声を伝えよう ~自然を守る取り組み~」が1日、那覇市の沖縄タイムスホールで開かれました。

 県内の小中学生8人で結成された調査隊は奄美大島(鹿児島県)と沖縄本島北部「やんばる」を、奄美こども調査隊6人と合同調査。人間が持ち込んだ外来種などによって生態系が崩れている現状を取材しました。

 シンポジウムでは「学んだことを伝え、実践していきます」と宣言。ワラビー「沖縄おもしろ博物学」でおなじみのゲッチョ先生こと、沖縄大学教授の盛口満さんが基調講演しました。

 主催は沖縄タイムス社、共催は一般財団法人沖縄美ら島財団、協賛は沖縄海邦銀行、環境ソリューション、沖縄コカ・コーラボトリング、沖縄セルラー電話。(順不同)

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ゲッチョ先生の基調講演
沖縄大学人文学部 こども文化学科教授

盛口満氏
固有・多様の背景知ろう

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 沖縄の学生が、オキナワオオコウモリを見ても驚きませんが、本土の学生は「大きい」とびっくりします。

 逆に沖縄の学生が本土のアブラコウモリを見ると「小さい」と言います。

 こんなふうに、わたしたちが「当たり前」と思っていることはお互いに違い、それは自然にも当てはまるのです。

 沖縄の代表的な生き物といえば、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコ、ハブなどが挙がるでしょう。

 先日、那覇市内の小中学生と話す機会があり、普段見かける生き物を聞いたところ、イヌ、ネコ、ハト、ゴキブリという答えが返ってきました。

街中には生き物が少ないことを表しています。

 ほかに“草”という回答もあったのですが、身近な植物の種類を知らなくても困らないというのが今の私たちの生活なのだと、小中学生との話で気付かされました。

 島々を比較すると文化の多様性が見えてきますが、文化に限らず自然もそうです。

 沖縄・奄美諸島にはいろいろ共通点がありますが、その一つにハブの生息があります。

 遺伝子研究から沖縄と奄美のハブは、タイワンハブに近い八重山諸島のハブより、中国地方のハブに近いとされています。大昔に中国から渡ってきて、取り残されてしまった「遺存固有種」とされています。

 そうした生き物たちに変化が起きています。

 グアム島にはグアムクイナがいましたが絶滅しました。原因は米軍が持ち込んだナンヨウオオガシラというヘビです。

 そのヘビが飛べないグアムクイナをすべて食べてしまったのです。また、先住民が山を燃やし獲物を捕獲するという方法だったため、森の木も枯れ、ほとんどが草原になっています。

 沖縄本島、奄美諸島には森が残っています。ヤンバルクイナもアマミノクロウサギもごくわずかですが生き残っています。

 人と共存してきたヤンバルクイナは非常に希少性があるのです。

 この自然をどう大事にしていくかが、残された課題です。

 全国の外来種の半分近くが沖縄に定着しています。近い島でも、海を越えて生き物を持ってきてしまうと外来種になってしまう可能性もあります。治外法権状態の米軍基地内を発生源とする可能性もあります。

 角が短い沖縄のカブトムシはけんかをするのが得意ではありません。角が長い外来種が入ってくると、在来種の特徴が消えてしまう可能性があります。

 絶海の火山島であるハワイは、生き物の種類がとても少なかったのですが、人間が棲みつくようになって、いろんなモノを持ち込み、生態系が激変しました。

 今やハワイのジャングルでは木も生き物もほとんどが外国から来たものに置き換わり、固有の生き物はほとんど残っていません。

 溶岩でできたハワイ島の海砂は黒いはずですが、リゾート地であるワイキキビーチは白砂です。

 「南国イメージ」をつくるためにアメリカ本土からタンカーで運んできたからです。沖縄でも人工ビーチはたくさん造られました。本来の自然の姿が分からなくなりつつあります。

 島には固有の歴史がはぐくんだ固有の自然があります。特に中琉球(沖縄・奄美諸島など)の自然は、古い時代に他地域から切り離された遺存固有種が多い、特有なものです。

古くから人が住み続けてきた島なのに、今にいたるも、そうした自然がまだ残されています。

 人々はそうした自然と関わり合い、固有の文化を島ごとに育んできました。

そんな島々の多様な自然と文化をどのようにしたら、未来につなげることができるのでしょうか。
 まず、その固有性、多様性を知ることから始めてみましょう。

PICRH20180901_000577.jpg(写図説明)(左)隊員の発表に聞き入る参加者  PICRH20180901_000569.jpg(上)司会はタレントの砂川英依さん。

テーマ やんばると奄美のキセキ

銘苅えこ あげな中3年

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 なぜ、やんばると奄美はこんなにも動植物が豊富で、そこだけにしかいない生き物が多いのでしょうか? 

 その理由は、主に2つあります。

 1つ目の理由は、やんばると奄美の気候帯が亜熱帯であることに関係しています。

 亜熱帯は気温が高く、一年を通して雨が多いという、つまり暑くじめじめした気候です。

 2つ目は、昔、奄美や沖縄が中国大陸につながっていた時、今の固有種の祖先となる生き物が中国大陸から移動してきたことです。

 長い年月をかけて大陸と島が離れ、奄美と沖縄に残された生き物たちは、そこにしかいない「遺存固有種」となったのです。さらに独自の進化をとげ、島の新固有種となりました。

素晴らしい多様性

島袋優真(美東中1年)

 しかし今、奄美とやんばるの生き物たちは苦しんでいます。

 貴重な生き物が、人の手によって持ち込まれたマングース
やノネコに食べられています。PICRH20180901_000582.jpg

 交通事故によって死んでしまったり、傷を負ったりしています。

 密猟や盗掘など、人間が直接、希少な生き物を減らしていると
いう事実もあります。

 これらの問題は、誰が解決すればいいのでしょうか? 

 外来種を持ってきたのは人間です。車を運転するのは人間です。
密猟や盗掘をするのも、人間です。

 地球上での奄美とやんばるの絶妙な位置は、長い歴史の中で
偶然出来上がったもので、唯一無二です。だからキセキなのです。

 そのキセキは、私たちの手で守っていかなければなりません。

 地球上には、たくさんの種類の生き物が生活しています。それが多様性です。
いろいろな生き物が存在して、そのうちの一つでも欠けると、全てが崩れていってしまう。

 全てが、関わりあって生きている、だから地球は素晴らしい。そう私たちは思います

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(写図説明)環境省自然保護官補佐の上開地広美さん(右)からやんばるの生態系について聞きました
=8月1日、国頭村の与那覇岳

テーマ 貝もゴミも海からのてがみ

長濱心乃(みの) 本部小6年

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 沖縄、奄美の海の生き物といえば「ウミガメ」が有名です。

 音にびんかんなウミガメは産卵時、回りが騒がしいと卵を産まずに海に帰り、最悪の場合、海の中で卵を出して、ふ化できなくなります。

 また、ウミガメは産卵やふ化した後、海に帰る時に光を反射して明るく見える海へと進んでいきます。

 しかし、周りに明るい外灯や照明があると、海に帰ることができなくなります。

 私たちにできることは、夜の海では静かにすること、明るさを最小限におさえることなど、ウミガメに与える影響を少しでも減らすことこそがウミガメを守ることにつながると思います。

 海の問題の中で一番しょうげきを受けたのがごみ問題です。

 最も多いごみは、ペットボトルなどのプラスチック製品です。プラスチックがれっ化し、5ミリ以下のサイズになったものをマイクロプラスチックといいます。

残そう きれいな海

稲福陽羽(あきは) 港川小6年

 沖縄は、紫外線が強く、砂浜が熱いので他の場所に比べて、
マイクロプラスチックがれっ化するのが早いのです。PICRH20180901_000579.jpg

 海で実際に調べてみると、25センチ×25センチの枠の中に、
マイクロプラスチックは6~8個ありました。

 このことから砂浜には、とても多くのマイクロプラスチックが
あることが分かります。

 このマイクロプラスチックを小さな魚が食べ、
その魚を大きなマグロなどが食べます。
それを人間が食べてしまうこともあります。

 少しでも、きれいな海、きれいな心を残すには、今が大切だと思います。

 ごみを出さないように、リサイクルできる物を使うようにするなど、一人一人の意識を未来に向けるべきだと思います。

 とても小さなことですが、みんながやれば、ごみがだんだん減って、美しい海が取り戻せると思います。

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       (写図説明)砂に混ざっているマイクロプラスチックの量に驚きました=8月2日、名護市瀬嵩の浜

被害をあたえる外来種

親泊愛都(まなと) ファミリーインターナショナルスクール沖縄5年

PICRH20180901_000549.jpg 奄美の海岸にたくさん生えている外来種の植物アメリカハマグルマは、在来種の植物の居場所を奪って繁殖しているのが現状です。

 そのため、環境省が緊急対策外来種に指定しています。
外来種をそのままにしておくことはできませんが、アメリカハマグルマも生きています。

 外来種を連れてきたのは人間です。

 動物の外来種としてはマングースがいます。沖縄では1910年に、奄美では79年に放たれました。

 なぜ沖縄と奄美大島に放たれたかというと、ハブの駆除が目的です。

 しかし、マングースは昼行性でハブは夜行性だったため、マングースは自分よりも弱い在来種などを食べ、食物連鎖がくずれました。

 環境省がマングースを退治するためにマングースバスターズを作りました。

 マングースバスターズは2022年までにマングースを完全駆除することを目標にし、奄美の山の中に3万個のワナを設置するなどしています。

みんな 同じ生き物

竹尾謙志郎 石田中1年

 しかし、マングースを退治するために、こんなにワナを置き、たんさく犬を育てるなんて、最初からきちんと考えておけば、ここまでおおごとにならなかったと思いました。PICRH20180901_000551.jpg

 たとえば、ペットは責任持って最後まで飼うなどのことが、ポスターなどを作って少しでも人に伝わっていけば問題はどんどん解決すると思います。

 動植物に共通していることは、在来種だけがかわいそうではないという事です。
在来種は、その土地にいた動植物、外来種はその土地にいなかった動植物です。

 違いは、そこにいたか、いなかったか、だけです。

 外来種も生きています。それだけで、駆除する、殺処分する事は、ちがうと思います。

 そもそも、外来種を持ちこんだのは人間です。外来種も在来種と同じ、命なのです。

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(写図説明)海岸に無数に生える外来種アメリカハマグルマを引き抜くのは
大変な作業でした=7月25日、鹿児島県奄美市の大浜海浜公園

人間活動と環境問題

黒田森海 琉大付属小6年

PICRH20180901_000554.jpgノネコとは、山で完全に野生化したネコのことで、1年で2匹から約100匹にも増えるおどろくべき繁殖力を持っています。

 やんばるに、もともとノネコは生息していませんでしたが、ペットとして持ち込まれたイエネコが、山に捨てられたり、家から逃げ出したりして野生化してしまいました。

 そのノネコは、在来種を食べて増え続けています。

 そこで現在、ノネコに対するいろいろな対策がとられています。

 外来種は在来種を食べてしまうので、在来種の数が少なくなり、その結果、生態系がくずれてしまいます。

 また、交雑して雑種が生まれ、純粋な在来種が減ってしまうなどの理由があります。

 しかも、奄美・やんばるの自然は在来種によって成り立っています。

 その生き物が減ると奄美・やんばるの自然も変わってしまいます。
これらの理由から、外来種を増やしてはいけないのです。


解決責任は人間に

高良克明 小禄小6年

 在来種アマミノクロウサギの居場所が畑や道路の進出など、人間の活動によってどんどん失われています。

 その結果、アマミノクロウサギが畑の農作物を食べてしまうという問題があるそうです。

 人間が環境問題を作り出しているのなら、人間が絶対に解決しなければなりません。PICRH20180901_000555 (2).jpg

 3つの方法があると考えます。

 1つ目は、ペットを飼うのならペットが一生を終えるまで幸せに暮らせるようにできるかを考えて飼う事。

 2つ目は、自然環境に手を加えるのなら事前に調査し、手を加えた後も調査をし続ける事。

 3つ目は、生き物が人間の思いのままになる道具ではないという自覚を持ち、全ての物や命を使い捨てのように利用しないこと。

 僕たちがこの3つを常に意識すれば少しずつ未来は変わっていくと思います。

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(写図説明)希少動物などのはくせいに触れ、環境保護の
大切さを強く感じました=7月24日、奄美博物館

沖縄との架け橋に

奄美隊員も堂々発表

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(写図説明)(右から)岩崎小桃さん(金久中2年)、稲田美空さん(小宿小5年)、
満田陽さん(大川中3年)、梅山羽南さん(朝日小5年)、
幸多羚愛さん(伊津部小6年)、孫田孔明さん(伊津部小6年)



 私たちは、奄美こども環境調査隊として、奄美の自然の素晴らしさや環境問題について学んでいます。

 昨年3月に国立公園に指定された奄美群島国立公園は、亜熱帯照葉樹林が中心で生物多様性が豊かです。

 奄美群島の面積は日本全体の0・3パーセントですが、生息している動植物は、日本国内の約16パーセントと言われています。

 さらにアマミノクロウサギ、アマミイシカワガエルなど奄美にしかいない固有種や希少種が数多く生息しています。

 しかし、近海のサンゴの白化現象が確認されるなど、奄美にも多くの環境問題があります。ほかにも、外来種対策があり、現在、一番の課題が、ノネコ・野良猫対策です。

 特にノネコは、アマミノクロウサギなどを襲い、生態系に悪影響を及ぼしています。

 行政や民間団体の取り組みを調査し、私たちに何ができるのか、考えていきたいと思います。

 奄美・やんばるなどの世界自然遺産登録は見送りになりましたが、今回の調査で、私たちが奄美と沖縄をつなぐ架け橋となり、さらに交流が深まることを期待しています。

 皆さん、ぜひ奄美にも来ちくんしょれ(お越し下さい)!

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(写図説明)海浜の外来種アメリカハマグルマを協力して採取しました
=7月25日、鹿児島県奄美市の大浜海浜公園

 沖縄こども環境調査隊と奄美こども環境調査隊は、7月後半から8月初旬にかけて、鹿児島県の奄美大島と沖縄本島北部「やんばる」を現地調査。

事後学習を経て、まとめたものが今回の発表内容です。