足元の自然みつめて 12隊員が調査報告
八重山視察ツアー

 沖縄こども環境調査隊のシンポジウム「沖縄の声を伝えよう~豊かな沖縄の生物と自然のかかわり」(主催・沖縄タイムス社、共催・沖縄美ら島財団、協賛・智光、沖縄海邦銀行、南西石油、昭和化学工業、我那覇畜産)が9月22日、県立博物館・美術館で開かれた。8月7日から4日間の日程で石垣島と西表島に分かれて視察した12人の小中学生が、現地の環境問題や保全活動について学んだことを報告した。隊員は全員で「地元の自然に誇りをもち、末永く保てるよう努力する」と力強く宣言。石垣島や西表島での調査を一過性のものにせず、今後も考え実行することを誓った。また、沖縄大学人文学部こども文化学科准教授・盛口満さんによる講演も行われた。

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テーマ:マングローブの生態と役割
多くの生物のすみか脅かすごみ問題
上里亮権くん(泡瀬小6年)
崎山喜志くん(名護中1年)

PICKH20121007_A0014000102700003.jpg環境調査隊メンバーの上里亮権くん=22日、県立博物館・美術館 西表島でマングローブについて調べるため、島北部のヒナイ川とその周辺に行きました。マングローブは主に熱帯や亜熱帯地方の汽水域に生息している植物の総称です。海水と真水が混じりあっている所でも生きていける植物です。世界には約100種類あり、日本には7種類が存在します。その全てを西表島で観察することができます。
 カヤックで移動中、満潮時に隠れていた根はまるでタコの足のようでした。オヒルギやメヒルギ、ヤエヤマヒルギが多く見られました。海水に対して強い種類と弱い種類があり、種類によって生育場所が分かれていました。マングローブは海水地で生育するため、根から海水を吸い上げ葉に溜め、塩分が溜まった葉を切り落として排出します。実際に葉をかじると、しょっぱかったです。
PICKH20121007_A0014000102700006.jpg環境調査隊メンバーの崎山喜志くん=22日、県立博物館・美術館 午後、潮が引くとベンケイガニ、コメツキガニなどが根の周りで活動し、オキナワアナジャコの巣も発見しました。ガイドの森本孝房さんは「森の生きものたちは支えあって生きている。この世に意味のないものはない」と話し、心に残りました。手つかずの自然が残る西表島の保全・保護は大切です。
マングローブは生物の住み家であり、生物たちが活動することでマングローブを救うことができるのです。しかし今、外国から漂着するゴミが問題になっています。地元の人々が漂着ゴミの回収活動を行っていますが、回収されたゴミの処理問題など多くの課題が残されています。
 今回初めて自然の大きとすごさを実感しました。カヤックでの移動中、沖に流されそうになった時には人生で一番ビビりましたが、ピナイサーラの滝の頂上から眺めた景色は最高でした。この貴重な大自然を、これからも残していくために、できることを少しずつ始めていきたいです。

テーマ:西表島の生活習慣と自然との共生
山の恵みに感謝する暮らしに触れて
東浜光汰くん(与勝中3年)
新垣笙くん(渡嘉敷小5年)

PICKH20121007_A0014000102700007.jpg環境調査隊メンバーの東浜光汰くん=22日、県立博物館・美術館  西表島には、空港やコンビニがありません。森の面積は島全体の約9割です。沖縄を代表する河川が流れ、自然が豊かです。大昔、琉球列島、日本列島、ユーラシア大陸と陸続きだった島は約2万5千年前に大陸から分別しました。長い間、島として分かれていたので、固有種が多く自然が豊かなのです。
 話を聞いた石垣金星さんは島のことに詳しく、自然のもので何でも作るすごい人でした。管理する新盛家は釘を一本も使わず、柱はチャーギ、屋根はワラ、屋根を支えるのはマングローブの木、ヒモ代わりに身近なツル性植物を使っていました。雨漏りもないそうです。
 島にアスファルトの道路がなかった時代は川が道路代わりでした。山を歩いて登るよりも船で直接、田や畑、山へ行く方が速かったそうです。また、山にはイノシシがたくさんいてPICKH20121007_A0014000102700004.jpg環境調査隊メンバーの新垣笙くん=22日、県立博物館・美術館危険なので、男たちは「山刀」という狩りの道具を必需品にしています。草木を切るなど万能道具です。
 山に入る時のルールとして必ずお祈りをします。金星さんは「山には人が植えた植物は一本もない。だからちゃんとお祈りをして入らなければならない」と話し、山への感謝を表していました。金星さんの話から、自然に感謝すること、自然は人の物ではないこと、人と自然は共存して生きていかないといけないことが分かりました。
 道路やダムを一つ作るたびに、たくさんの命が亡くなっていることは人間のせいです。
 これから私たちにできることは、まずゴミ拾いをし、自然のものをできるだけ取り入れることです。そうすれば、少しは周りの自然環境も良くなるはずです。一人一人の力は小さくても、みんなでやれば大きな力になります。
 自然と共存していくため、一人一人頑張っていきましょう。

テーマ:島人の宝~美しいサンゴの海を守れ
観光支える自然 もっと大事にしたい
黒澤にこさん(伊原間中2年)
黒澤ふらりさん(明石小5年)

PICKH20121007_A0014000102700008.jpg環境調査隊メンバーの黒澤にこさん=22日、県立博物館・美術館 白保の海には北半球最大の青サンゴの群生があり、その広さはサッカーコート約2つ分です。青サンゴは成長が遅く、白保サンゴ村の上村真仁さんは「青サンゴを守るため、白保にサンゴ村ができた」と教えてくれました。海域公園地区にも指定されています。
 白保サンゴ村では今、特に赤土の流出を食い止める活動を行っています。実際、私たちも透視度計を使い、海と川が合流する場所で川岸の砂を採集しました。測量の結果、サンゴが生きていけるギリギリの量でした。また、白保の昔ながらの漁「インカチ」は、浜の近くに石垣をつくり潮の満ち引きを利用して魚を捕る伝統的な漁です。豊かなサンゴ礁のお陰で戦前まで捕れた魚も今、サンゴ減少で昔のように捕れません。
 国際サンゴ礁研究モニタリングセンターではサンゴ移植を行っています。コマ状の着床具PICKH20121007_A0014000102700011.jpg環境調査隊メンバーの黒澤ふらりさん=22日、県立博物館・美術館を海底に設置し約2年間海底で育てた後、海底に移植します。この方法はサンゴの群生に影響を与えず作業ができる上、大規模に実施でき、作業の標準化が可能という利点があります。2006年度には7万3000個の着床具が設置されました。
カヌー体験ではシオマネキという片腕が大きいカニを観察しました。子どもは両腕が小さいそうで、あるとき片腕が取れて水ぶくれのような物ができ、そこから腕が生えるという面白い生物です。マングローブとサンゴ礁はお互い支え合って生きています。自然の調和があるからこそ、面白い生物がたくさん生息できるのです。
 私たちは石垣島北部の伊原間に住んでいて、自然が当たり前すぎて普段意識しません。遊びも冷房の部屋でゲームをするのがほとんど。来年3月に新空港が開港します。観光客は島のサンゴ礁に魅力を感じていることを私たちがもっと意識することが大切です。今回の経験を学校で発表し多くの人に関心をもってもらいたいです。

テーマ:イリオモテヤマネコから見た生態系
水田に集まる生物たちが命を支える
島袋茉弥さん(喜如嘉小6年)
後藤依奈さん(北中城小6年)

PICKH20121007_A0014000102700010.jpg環境調査隊メンバーの島袋茉弥さん=22日、県立博物館・美術館 イリオモテヤマネコは西表島全域に生息していますが、標高200メートル以下の低地部は沢が多く、環境が多様で、餌となる動物の種類も数多く生息しているからです。 体の大きさはイエネコとほぼ同じ。尾が先まで太く斑紋があり、丸い耳先が特徴です。夕方から翌朝の日が昇った直後までが活動時間です。西表島の生態系の頂点におり、昆虫、鳥類、ネズミといった哺乳類などさまざまな生き物を補食します。
 ところが最近イリオモテヤマネコが減ってきています。原因の一つが交通事故。西表野生生物保護センターでは、事故があった場所に看板を置き、道路下に生き物専用の道を付ける保護対策をしています。
 また外来種で毒のあるオオヒキガエルを誤飲したり、イエネコと餌を取り合って死ぬこともあります。観光地開発や道路整備などで森が切り開かれ分断し、田畑がPICKH20121007_A0014000102700009.jpg環境調査隊メンバーの後藤依奈さん=22日、県立博物館・美術館減少したことも原因です。
センター長の永長大輔さんは「種一つひとつではなく、地域一帯の保全が必要」と話しました。また西表島に住む石垣金星さんの「西表の人々はイリオモテヤマネコを山の神様として敬ってきた」という話から昔は森と人とが共存してきたことが分かりました。
 イリオモテヤマネコが生きていくには、森や川、水田が必要。水田にはイリオモテヤマネコが捕食するカニやカエル、鳥類もやってきます。人間が作った水田が生態系の中心になり、共存の場になっています。
 私たちにできることは、自然や生物を排除せず、自然の風を取りいれながら、身近な環境を保つ工夫をすること。またペットからの感染を防ぐため、ペットを大切に育てていくことも大事です。一度壊した自然は簡単には元に戻りません。自分の住んでいる地域からゴミ拾いなどの活動をしていきたいと思いました。

テーマ:海と陸のつながりについて
サンゴ礁保全に農業との連係必要
竹尾和佳奈さん(石田中2年)
島袋眞子さん(琉大附屬小6年)


PICKH20121007_A0014000102700018.jpg環境調査隊メンバーの竹尾和佳奈さん=22日、県立博物館・美術館 石垣島は人口約4万8千人、面積が229平方キロメートルの島で、主な産業はパイナップルやサトウキビなどの栽培です。年間60万人が訪れる人気の観光地です。白保サンゴ村の上村真仁さんの話によると、サンゴのある海は世界的に珍しく、0・2~0・3%しかありません。日本の中で約55%が八重山諸島に生息しています。海の生き物の4分の1がサンゴ礁の自然に関わって生きています。
 1998年、大規模な白化現象で世界のサンゴの3~7割が減少し、沖縄でも6割が白化しました。原因はその年に台風が一度も来なかったため平均水温が1~2度上昇したことと考えられており、台風も大切だと知りました。
 サンゴの天敵、オニヒトデは80年代に八重山で大発生し、サンゴを全滅させました。オニヒトデは、今は肥料として活用されています。また、オニヒトデがいないと成長の遅いサPICKH20121007_A0014000102700012.jpg環境調査隊メンバーの島袋眞子さん=22日、県立博物館・美術館ンゴがバランスよく育たなくなってしまいます。オニヒトデは敵ではなくサンゴ礁の一員なのです。
 現在、世界中のサンゴが危機的な状況にあります。土砂の流出や生活排水、農業による水質の悪化…全ては人間による影響です。「グリーンベルト運動」は、畑の周りに植物を植えサンゴ礁に流れ込む赤土を防ぐ活動です。地域の人々が中心となり、サンゴ礁の保全と資源管理を目指した「持続的な地域保全」で、サンゴ礁保全につながる第一歩です。育った植物は販売しグリーンベルトの経済効果を高め、対策農家を増やす。この仕組みが第二歩となります。
 沖縄の自然、特に海は世界トップクラスの美しさ。泳いでいける距離に豊かな自然があることを多くの人が知れば、サンゴの保護も様々な考えが浮かんでくるはず。「人の暮らしとともに今ある自然を守る」。より良い環境を取り戻すため、今の現状を世界に伝え行動し、沖縄の自然を守っていきたいと思います。

テーマ:サンゴの味方と敵について
赤土の流出を止めるには陸地の植樹
上阪主税くん(具志川中1年)
幸喜礼佳くん(小禄南小5年)

PICKH20121007_A0014000102700013.jpg環境調査隊メンバーの上阪主税くん=22日、県立博物館・美術館 ぼくたちは石垣の海が今どうなっているのかを調査しました。調査前日は台風で海は荒れていましたが、ツアーガイドの大堀健司さんは「少しくらいの台風なら、上の暖かい水と下の冷たい水が混ざってサンゴがちょうどいい温度になり、生き残りやすくなる」と教えてくれました。石垣の海は浅瀬もサンゴで埋め尽くされ、水族館でしか見ることができない生き物に会え、目を疑いました。
 サンゴは光合成を行い、サンゴの中のカッチュウソウが作った栄養分を小さなプランクトンたちがエサにします。それを食べに集まった小魚を狙い、中・大型魚が集まり、人間はそれらを捕って食べます。魚のフンはナマコなどが分解してきれいにしてくれます。
 またサンゴ礁は自然の防波堤となり外洋から押し寄せる荒波から島や陸地を守ってくれます。サンゴは死んでもサンゴ石灰岩として石垣や赤瓦のしっくい、家の柱の土台に利用されます。
PICKH20121007_A0014000102700005.jpg環境調査隊メンバーの幸喜礼佳くん=22日、県立博物館・美術館 そんなサンゴに今、危機が迫っています。オニヒトデによる被害、赤土流出、水温上昇による白化現象、ダイビングによる被害、土地開発による消失などです。あまり聞かないダイビングによる被害とは、ダイバーのフィンでサンゴが折れたり、傷つくことが原因です。
 サンゴ礁がなくなるとプランクトンや魚たちはすみかをなくし、漁業や観光業で生活している人々も仕事を失ってしまいます。
 そこで、サンゴの危機を救う活動があります。畑の周りに月桃を植え赤土の流出を防ぎ、たまった赤土は焼き物にします。
 オニヒトデを薬剤注射で駆除したり、サンゴを養殖したり、洗剤を海に流さない生活と、さまざまな努力をしている人たちがいます。
 ぼくたちも日頃ゴミを分別し、エコバックを利用するなど少しでも環境のことを考え行動していきたいと思います。


身近な自然との対話が大事
沖大准教授 盛口満さん

PICKH20121007_A0014000102700019.jpg 生き物を見るとき、人間の見方と自然界での在り方が違うことを知っていると面白い。例えば身近なゴキブリは人間から嫌なモノ扱いされ、テントウムシは好かれる。しかし自然界でゴキブリはいろんな生き物に食べられている。一方、テントウムシは固くて鳥が食べない。食べられないから動きもゆっくり。ゴキブリの中にはテントウムシに化けたものもいる。
 世界の中でも石垣島と西表島にすむルリゴキブリは大自然の中にしかいない。家の中で見るのはワモンゴキブリ、大自然の中のゴキブリは原生ゴキブリ。沖縄の自然を考える場合、ヤンバルや離島のような大自然と、那覇など人間の影響が強い場所でどんな生き物が住んでいるのかを見ていくことも大事。
 以前、ハワイで元の森が人工の森と入れ替わったのを見て非常にショックを受けた。虫も鳥も、元々ハワイにいたものとは違う生き物になっていた。代わりにペットで持ち込まれたカメレオンが増えている。沖縄でもマングースーが増えたり、ベトナム戦争時に基地から増えた外国産の虫がいたり。
 3億年前から形が変わっていないワモンゴキブリは中国と貿易をする間にやってきた。元々はアフリカ原産。まだ、沖縄の場合はそっくりそのまま入れ替わるようなことにはなっていないけれど今後、変化していく自然を見ながら、これって本当にいいのかな、ご先祖さまは自然とどんなかかわりをもっていたのかな、と考える日常の眼差しを持ってもらいたい。

沖縄の自然からのメッセージ 宣言文

 一つ、動植物にも関心を持ち、正しい知識を身に付ける
 一つ、自分の生活について振り返り、生活の便利さの先に何があるのか想像する
 一つ、八重山諸島で学び考えたことを、一過性のものにせず、今後も継続して実行する
 一つ、地元の自然に誇りをもち、末永く保てるよう努力する

 ぼくたち一人一人にできることは小さいかもしれません。ですが、今回調査した12人それぞれが信念を持って行動することで世界を変えていきたいと思います。
 私たちは世界を変えます!