美しい琉球弧 未来へ

 沖縄こども環境調査隊2013のシンポジウム「地球の声を伝えよう~琉球弧の豊かな生物と自然のかかわり」(主催・沖縄タイムス社、共催・沖縄美ら島財団)が7日、那覇市のタイムスホールで開かれた。7月30~8月2日の3泊4日の日程で、奄美の海や山などの環境問題を調査した隊員8人は、奄美の自然を通して、琉球弧に共通する課題と解決のための決意を宣言。派遣先の奄美大島で行動を共にした奄美こども環境調査隊6人も参加し、それぞれが感じる自然保護の大切さを訴えた。また、奄美の固有種アマミノクロウサギを撮影し続ける写真家・浜田太さんの基調講演もあった。協賛は智光、沖縄海邦銀行、南西石油、環境ソリューション、沖縄コカ・コーラボトリング、我那覇畜産(順不同)。

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自然との共生
貴重な森 守るのは人間
高山真之介君(沖縄カトリック中3年)
外間円佳さん(与那原小6年)

外間まどか.jpg高山真之介.jpg 奄美住用のマングローブ林は71平方キロメートルと日本で二番目の大きさ。実際、林に入ってみると、田芋の水田のようにヌルヌルして、思うように足を動かせませんでした。
 沖縄と奄美の森の特徴は、暖かく雨が多い点。世界的にみても珍しい亜熱帯の森林があり、過去に大陸と分断を繰り返したため固有種が多いという特徴があります。この点から沖縄・奄美の森は貴重なことが分かります。奄美の森にも、アマミノクロウサギやアマミヤマシギ、アマミハナサキガエルなどの固有種が多く生息しています。
 しかし豊かな森にも問題があります。例えばマングースや犬猫が希少生物を食べたり、またアマミノクロウサギなどが車にひかれてしまうことがあるそうです。そこで野生動物を守るためのマングース駆除活動のほか、交通事故の問題に対しては、看板を設置したり、チラシやステッカーを配って注意を呼びかけています。この話を聞いて、お父さんには車をゆっくり走らせてもらおうと思いました。
マングローブ林にも問題があります。例えば干潟に勝手に植えられたマングローブの木。カニのすみかがなくなってしまう可能性があります。また木の間にはさまったトラックのタイヤや流されてきた、たくさんのゴミがひっかかり、大きな問題になっています。
 自然と共生するためには、私達それぞれができることを行い、一回きりでなく継続することが大切です。例えばペットは大切に育て、車のスピードは出しすぎない、無駄なものを買ってゴミを増やさないなど、環境に対して責任を持った行動が大切です。みんなでこのようなことを守っていけば、環境も良くなると思います。

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奄美大島の歴史や文化、自然などについて、説明に聞き入る高山真之介隊員=7月30日

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エフエム奄美に出演する外間円佳隊員=7月31日

海と共に生きる
エコ生活でサンゴ保全
比嘉咲さん(読谷中3年)
親富祖和香那さん(安波小6年)

親ふそわかな.jpg比嘉咲.jpgあなたは今、サンゴに起きている問題を知っていますか? サンゴとは動物でイソギンチャクと同じ仲間。体の中に「褐虫藻(かっちゅうそう)」という藻類を住まわせ、褐虫藻が光合成をして作るエネルギーをもらって、硬い骨を作り成長します。そして長い年月をかけ、積み重なってできる地形のことを「サンゴ礁」といいます。沖縄や奄美にはとてもきれいなサンゴ礁があります。
 しかし今、沖縄も奄美もサンゴの危機に直面しています。問題の一つにオニヒトデがいます。1970年から80年にかけオニヒトデが大量発生し、サンゴが食べ尽くされてしまいました。その後オニヒトデは減少し、現在は多くの海域でサンゴの回復が見られるそうです。
 2つ目は温暖化によるサンゴの白化現象。温暖化で海水の温度が上がり、褐虫藻が光合成できなくなり、サンゴは死んでしまいます。今年8月、沖縄美ら海水族館付近でサンゴの白化現象が確認されています。
 3つ目は赤土の流出。赤土は粒子が細かく、一度水に混ざるとなかなか沈殿せず、長時間水を濁らせます。すると褐虫藻の光合成がじゃまをされ、サンゴが死んでしまいます。
 海全体の0・2%のサンゴ礁に、海の生物の25%が住んでいます。そのサンゴ礁がなくなれば、生態系の一部が崩れ食物連鎖が成り立たなくなります。私たち人間が食べる魚もいなくなります。また褐虫藻が光合成する時に排出される酸素の量は森の6~10倍。つまり、サンゴが減れば最終的には人間の生活に影響が出てくるのです。
 サンゴを守るために、私達に何が出来るでしょうか。まず、温暖化防止のためにエコな生活をすることです。例えば冷房の設定温度や不要な電気を使わないこと、などです。
 今回分かったのは「沖縄と奄美は同じ問題を抱えている」「環境問題は身近な問題」「主な原因は人間で、解決できるのも人間」ということ。10年後、20年後、未来の海、自然を私たちの手で守っていきましょう!

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カヤックでマングローブ林を探検する笑顔の比嘉咲隊員=8月1日

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外来種が奄美大島の生態系に与える影響について学ぶ親富祖和香那隊員=7月31日

ウミガメと人間のつながりを見つめて
意識と行動 世界変える
真栄田あかりさん(古堅中3年)
上原玄武君(港川小6年)

上原玄武.jpg真栄田あかり.jpg私たちはウミガメと人間のつながりについて調べました。理由は2人ともカメを飼っていて関心があったからです。奄美視察2日目の夜、アカウミガメの子どもを見ることができました。砂浜からはい上がった子ガメは、なかなか海に向かって行こうとしません。それでもライトに誘導され、私たちに見守られながら、海へと旅立ちました。ふ化した子ガメを初めて見た私たちは、小さな体に力強さを感じました。
 ウミガメの卵の天敵、それは、アカマタやカニ。昔から続く食物連鎖の一つですが、最近になって、リュウキュウイノシシが卵を食べるということが起こっています。本来、山に住むイノシシが砂浜に現れるようになったのは、人間が森林を伐採し、山の面積が狭くなったからではないかと私たちは考えました。
 釣り糸が絡まり身動きがとれず、そのまま死んだウミガメの写真も見ました。海や砂浜に捨てられたビニール袋をクラゲと間違って食べてしまい、消化できず腸につまらせ死んでしまうケースもあるそうです。これらは全て、人間のせい。ポイ捨てしたゴミがウミガメを死なせることもあるのです。
 「ポイ捨てぐらい、別にいいさぁ」ではありません。自然の大切さを子どもに教える立場にいるのは、全世界中の大人たちです。まず大人が「やってはだめだ」と手本を示してください。そして、子どもたちは絶対にポイ捨てしないと決意してください。
 今回の活動を通し、初めて人と自然は関わりあって生きていると知りました。
 私たちと皆さんにできることは、自分の行動に責任を持つこと、自然環境について考えていくこと。たったひとつの行動、少しの意識で、沖縄は、日本は、そして世界は変わるはずです。もしも海でウミガメに出合ったら、むやみに近づかない、光を照らさない、大声を出さない、持ち帰らない、この4つを守ってください。ウミガメとともに暮らすきれいな海、地球を一緒に取り戻していきましょう。

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住用川で出合ったリュウキュウアユに興味津々の真栄田あかり隊員=8月1日

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ずぶ濡れになりながら、住用川の生き物を探す上原玄武隊員=8月1日

固有種と外来種の関係
在来種の生態系に影響
金城さくらさん(大宜味中1年)
藤原のぶさん(天底小6年)

藤原のぶ.jpg金城さくら.jpg 固有種とは特定の地域に生息している生物。沖縄の代表的な固有種は、ヤンバルクイナ、ケナガネズミ、ヤンバルテナガコガネなどです。次に外来種とは、外から何らかの形で紛れ込んできた生物、また目的をもって人が持ち込んだ生物のことを指します。食用としてスッポン、ペットして犬猫、荷物に紛れてきたクマネズミなどが挙げられます。
 外来生物は、さまざまな形で影響を与えます。一つは、在来生物への影響。在来生物が減り、いるはずのない雑種が生まれたり、生態系を変えてしまいます。また人間にとっても脅威で、毒を持つ外来生物は人間の生命を脅かします。三つめは農業・漁業への影響。作物を荒らしたり、水産物を食べてしまうこともあります。
 ではネズミ・ハブの駆除目的に持ち込まれたジャワマングースを見てみましょう。生息地は元々、西アジア・東南アジアで、1910年に那覇で13~17頭、1970年に奄美で30頭が放されました。
 しかし、マングースは「ハブ」を食べませんでした。ハブを食べない理由はマングースが昼行性、ハブは夜行性のため。そのかわりマングースがエサにしたのは、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギなど、元々いる希少な動物たちでした。
 さらにマングースを食べる生き物がいないため、その数はどんどん増えたのです。
 2005年、マングースの被害を防ぐため、沖縄・奄美でマングースバスターズが結成されました。筒ワナ・カゴワナで捕獲し、探索犬やセンサーカメラなどで生息範囲を確認。08~12年までの捕獲頭数は年々少なくなっており、在来生物への脅威が減ってきていることが考えられます。
 奄美・沖縄の野生生物保護センターでは、外来生物を「入れない」「捨てない」「広げない」を合言葉に活動しています。私たちもゴミは捨てない(拾う)、環境について調べ参加する、調べたことを広める、この3つを心がけ、きっかけにしていきたい。

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川の生物を観察するための箱メガネを熱心に制作する金城さくら隊員=8月1日

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マングローブの生き物の撮影に挑戦する藤原のぶ隊員=8月1日

古里の魅力 沖縄へ発信
奄美こども環境調査隊

 沖縄こども環境調査隊に続いて、今年は派遣先となった奄美のこども環境調査隊員6人もシンポジウムに参加。奄美大島の海や森などの自然や文化について、2班に分かれ調査結果を発表した。

きれいな自然 大事に
「海の生き物」

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「海の生き物」をテーマに発表する(左から)渡邉望未さん、吉田愛恵さんと、山下歩美さん(右)

「海の生き物たち」について調べた山下歩美(あゆみ)さん(名瀬(なぜ)中1年)は、舞台のスクリーン上にオニヒトデやサンゴの白化現象の画像を映し出しながら「遠い昔から奄美に当たり前のようにあるサンゴ礁は、さまざまな環境の変化や人間がもたらした地球温暖化による影響で、白化現象やオニヒトデの被害などで、とても深刻な状態になっている」と説明。
 朝日小5年の吉田愛恵(まなえ)さんは「もともと沖縄にいたリュウキュウアユが、沖縄にはいなくなり、奄美大島だけに残って絶滅危惧種に指定されていることを知って驚いた」と話し、ペットボトルで手作りした水中メガネを使って、たくさんのリュウキュウアユを観察したことを報告した。
 小宿(こしゅく)小5年の渡邉望未(のぞみ)さんは、「子ガメがふ化して、砂の中から顔を出し、1時間ぐらいかけて出ていく様子を観察した。ぐるぐる回転しながら、光の方へ進み、最後は海へ旅立って行った」とその感動を振り返り、「子ガメが大きくなって、また奄美の海に戻ってきてほしい。きれいな海や山を守るためには、自然を大事にすることが大切だ」と会場に呼びかけた。

ルールを守って共生
「奄美の森」

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奄美の森をテーマに発表する(左から)久保田詩織さん、森田凛さん、杉尾陽菜さん

 「夜になると真っ暗な森の中で、蛍が飛び、アマミノクロウサギが林道に出てきたり、ルリカケスやアマミヤマシギなどが枝で寝ていた」
 手花部(てけぶ)小6年の杉尾陽菜(ひな)さんは、奄美市住用の森で観察した生き物たちの写真を紹介。「奄美の森は動植物の宝庫。アマミノクロウサギに限らず、動物たちにとって素晴らしい森や環境があったから、古来の姿のままで残っている。この森は私たちが守っていかなければならない」と強調した。
 朝日小6年の森田凛(りん)さんは、奄美野生生物保護センターで学んだことを報告。「ぞっとした」というノネコがアマミノクロウサギをくわえる写真を紹介し「外来種を持ち込んだりペットを捨てたり、人間のせいで奄美の動物たちがいなくなるのは、とても残念。ルールを守り、森や海、動物たちと一緒に仲良く暮らせる環境を一番に考えていきたい」と話した。
 名瀬小6年の久保田詩織さんは「奄美は生物が多様で、ここにしかいない生物が多く住む場所ということをあらためて知った。実際に足を運んで、見て感じたことを、今後は友達や家族に伝えていきたい」と抱負を語った。

世界遺産へ 森守る義務
基調講演 写真家 浜田太さん
アマミノクロウサギから見えた琉球列島の自然の仕組み

 アマミノクロウサギを追いかけ10年目の1996年、子育ての様子を世界で初めて撮影できた。子ウサギは親とは別の巣穴で育てられ、2日に一度、やってくる母親が穴を掘り、出てきた子ウサギに5分間の授乳をすると、外敵から守るため母親は30分かけてまた穴をふさぐ。子ウサギが暗い穴の中でじっと母親を待つ様子を見て、言いようのない感動を覚えた。
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 人間社会では親が子を殺す、子が親を殺す事件が起きている。クロウサギが生きる姿を通し、親子の絆を伝えたいと思い、彼らの子育てを描いた絵本『とんとんとんのこもりうた』を発刊した。すると、読者からたくさんの反響を頂いた。
 生きた化石と呼ばれるアマミノクロウサギはなぜ、古来の姿のまま生き残れたのか。それは豊かな森の存在。山水は、リュウキュウアユがすむ川に、里の田に流れる。そして海に流れ、ウミガメや熱帯魚が遊ぶサンゴ礁を育む。森が豊かな海を育む。どんなに人間の文明が高度化しても、生命体の基本を壊してはいけない。
 夜を徹した撮影を終え、朝日を浴びるヘゴを見るたびに、祖先もこの風景を見ていたのだろうと感じる。100年後の子孫もこの風景を見られるかもしれない。奄美・沖縄の世界遺産登録まであと一歩。それは自然を守る義務も与えられたということだ。クロウサギの生態を伝えることで、奄美の森を守りたい。一生をかけて道筋を作りたい。
 なぜアマミノクロウサギは奄美に、ヤンバルクイナはヤンバルに、イリオモテヤマネコは西表島だけに住んでいるのか。クロウサギを追いかけて30年。支えたのは探求心だった。環境調査隊の皆さんも足元の自然の仕組みをぜひ解明してほしい。

沖縄・奄美こども環境調査隊2013 環境宣言文

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