環境保全は行動力
シンポジウム「地球の声を伝えよう」
一人一人の意思つなぐ
沖縄こども環境調査隊(主催・沖縄タイムス社、海洋博覧会記念公園管理財団)でインドネシアのバリ島を訪れた6人の中学生が、人と自然のあり方を考えたシンポジウム「地球の声を伝えよう~サンゴ礁からのメッセージ」が9月26日、那覇市の県立博物館・美術館で開かれた。メンバーは8月14日から6日間、バリ島の自然や環境保全の取り組みなどを視察。そこで感じた“自然との共存”への思いをそれぞれ発表し「環境保全への一人一人の意思をつなぎ、行動する人・行動を起こさせる人になる」と宣言した。またコーラルクエストの岡地賢代表による講演「究明!オニヒトデの大量発生」、仲宗根朋美気象予報士による「温暖化のはなし」も行われた。
シンポジウムの最後には、6隊員が代わる代わる宣言文を読み上げた=9月26日、那覇市の県立博物館・美術館
〓枝晏梨さん・首里中3年
一人一人をつなぐ人
サンゴ守る態勢を
サンゴを守るため、セランガン島の人々が一つになって取り組んでいたことに衝撃を受けた。1997年からの埋め立てでサンゴが死に、生活に困った漁師が立ち上がり、サンゴ保護プロジェクトを2003年11月から始めた。そんな島の人々の協力態勢に驚いた。
バリでは、わたしたちが毎日使う携帯電話のように、海が身近なものだと分かった。携帯電話やパソコンなどは修理に出せばすぐ直るが、海などの大自然は簡単に治せない。だからこそ、大切にするのだと思った。
これまで何となく「サンゴは大切」と知っていたが、サンゴがなくなるとどうなるかや、魚との共生などを一つ一つ知り、やっと本気で「守らなきゃ」と思った。バリでは、わたしたちよりさらに海と隣り合わせの生活をしている人々のサンゴへの思いや工夫、沖縄とは違った視点を見ることができ、新たな発見もあった。
一人でも多くの人にサンゴという動物のことを知ってもらえば、わたしのように本当の必要性を知ってくれる人が出るはず。一人一人の気持ちを合わせて、色とりどりの海を造っていきたい。島の漁師ワヤンさんのように、人と人をつなぐ人になりたい。
※(注=〓はへんが「山」でつくりが「竒」)
富永麻鈴さん・古蔵中3年
沖縄の海、再発見
知ることが始まり
沖縄の海が、どのくらいきれいかを知っていますか。わたしは父に「良さは海外に出てみないと分からない」と言われて参加した。
人と海はどうつながっているのか?
きれいな海があるから魚介類が食べられ、観光客が訪れる。サンゴは豊かな海を支え、ビーチの砂を沖に流れるのを防いだり、波の浸食を防ぐ。
サンゴがなければ水産物が食べられず、漁師が生活できなくなり、観光客も減る。人間の生活に影響が出るのは、バリでも沖縄でも同じことだ。
海とかかわりの深いわたしたちだからこそ、海を守らないといけない。
取り組みとして、バリではサンゴ移植やマングローブの植林、リゾート地での浄水システムなどがあった。沖縄ではオニヒトデの駆除はかかせない。浄化槽を完備するホテルも多い。
でもわたしはバリで、沖縄での取り組みをあまり知らないことに気がついた。あらためて、沖縄の海はきれいだな、とも思った。
沖縄の人たちが沖縄について、もっと知ることが大切。自分のため、子孫のためにも海はなくてはならない。
もっと勉強して自分にできることをやっていきたい。沖縄の海を守るため、一緒に頑張りましょう。
知念信君・沖尚中1年
僕は自然の一部分
自然敬う心大切に
自然や生き物が大好きで、テッポウエビやミズオオトカゲなどに出会えて感動した。資金ゼロの状態からサンゴ移植を始めたセランガン島では、課題として原因不明のサンゴの病気や急激な温度変化、船による水質汚染などがあった。
それでも、移植資金を作るため、独自で魚礁を造ったり、タツノオトシゴや熱帯魚を育てて売っているという。
サンゴを植え付ける台には、海に流れていたごみが使われていた。ごみの再利用に感心したが、一度ごみだったものを加工して海に戻せば、また海を汚すのではないか、とも思った。
地元の漁師のワヤンさんは「育ったサンゴがコーティングするので大丈夫だよ」と言っていた。試行錯誤しながらの取り組みに、セランガンの人たちのサンゴを守る努力を感じた。
旅行中、地元の方は「海の向こうには神様がいる」「君たちがいいことをしたから、神様がきれいな夕日を見せてくれた」と言ってくれた。
バリでは「自然=神様」を大切にする心があった。沖縄にもあったはずだが、最近は自然を敬う心が薄れていると思う。自然なしでは、僕たち人間は生きていけない。大切に思う心をなくしてはいけない。
東江大君・伊是名中1年
バリと沖縄の共通点
自然の中に神様が
魔を払う儀式とされる「ケチャダンス」が印象に残った。音楽の時間に声だけは聞いたが、生で見るのは迫力があった。沖縄にも伝統芸能のエイサーがあることに気づき、沖縄とバリを比べてみようと思った。
まず信仰。沖縄は台所のヒヌカンやウタキにお祈りする。バリでは毎朝と夕「チャナン」というヤシの葉でできた器に花やお菓子を入れてお供えしていた。また沖縄は住んでいる土地や屋敷、台所に神様がいるとされ、先祖を敬う。バリでは自然の中に神様がいると考えられているようだ。似ているが、ちょっと違うところがあると思った。
海を守る取り組み。恩納村でサンゴ移植の取り組みを見た。バリではタナロット寺院での修復を見た。修復は日本の援助で行われているが、工事の前に海の神様にお祈りしていた。沖縄では科学的に、バリでは自然=神様を信じて海を守ろうとしていて、ここも似ているけど少し違っていた。
バリに行って、これまで海に行ってもあまり気にしていなかった、サンゴを見るようになった。でも伊是名にサンゴは多くなく、移植しようという計画もない。将来は、伊是名でサンゴの植え付けをやりたい。
竹尾満里奈さん・石田中1年
海と人のかかわり
楽しみながら保護
海にどのくらい行きますか? バリの中学生に質問すると「休みにはすぐ行くよ」「海は大好き」と言っていた。ヒンズー教のタナロット寺院は海の中にあり、バリでは遊びも信仰も海が深く関係していた。一方で、沖縄と同じように海の問題もあった。
クタビーチのサンゴ移植エリアは水が濁っており、地元のプラスさんは「周りの建物から出た生活排水のせいかもしれない」と教えてくれた。漁師町セランガンではカジノ建設の埋め立てで魚が減っていった。
問題に対するプロジェクトも行われていた。セランガン島ではサンゴ移植の取り組み、リゾート地ヌサドゥアでは生活排水を自然の方法でリサイクルし、川に流していた。人々が楽しみながら取り組んでいて、沖縄と同じシマンチュのバリの人々も、海の問題を解決したいと強く思っていた。
沖縄もバリも海には神様がいると言い伝えられている。だから、大事に受け継がれてきたと思う。(1)仲間と楽しみながら取り組む(2)きれいな海に戻るまで責任を持って続ける(3)海の現状や問題、バリで見たことをしっかり伝える―ことを大切に、海と付き合っていきたい。
下里雛乃さん・鏡原中1年
ゴミで海を汚さないために
貴重な体験生かす
私たちが泊まったホテルの近くのビーチは一見きれいに見えたが、トウモロコシの芯(しん)やお菓子のゴミが捨てられ、汚かった。バリの海はきれいという先入観を持っていたので、驚いた。
マングローブは、陸のごみが川に流れるのをせき止めるが、皮肉なことに、ごみが大量にひっかかると呼吸ができず死んでしまうこともある。もし沖縄で海にごみを捨てると、潮の流れに乗って、県外や外国の海岸に流れ着くかもしれない。逆に外国のごみが県内に流れつくこともある。海は世界中でつながっている。
海にごみを捨てると水質が悪化してサンゴが死に、生物が減る。よい漁場から生物が減り、漁業関係者が生活できなくなる。海底の景観も消えて観光業が低迷する。すると失業率があがり、景気がさらに悪くなるかもしれない。
「観光地=きれい」とは限らない。沖縄にも共通することではないか。沖縄は不法投棄が全国的にも多い。観光客はがっかりするかもしれない。こう考えることができたのは、ほかの観光地に行って沖縄はどうかと思ったから。まさに「百聞は一見にしかず」。今後もこのような体験をたくさんして、ほかの人に伝えたい。
講演「究明!オニヒトデの大量発生」岡地賢氏(理学博士)
人間活動との関係を指摘
27年前、念願の琉球大学海洋学科に入った。来県6年目の環境省の全島調査で、多くのサンゴ礁が消えたと知り、サンゴを食べるオニヒトデの研究を始めた。オニヒトデは世界に広く分布し、ときに大発生する。かつては何キロも泳ぎ続けて1、2匹見つかる程度の珍しいヒトデだったという。
1960~70年代に世界で大発生が起き、人間活動との関係が指摘された。オニヒトデは年に1千万個の卵を産む。卵からかえった幼生は水面を漂い、成長しながら海底に沈み岩の上に着く。海を漂う幼生の生存率が少しでも高くなると大人の数が増える。
幼生の生存率は海中の植物プランクトンの量で決まる。陸地から流れ込む排水などに含まれるリンや窒素が増えると、植物プランクトンが増え、それを食べる幼生も多く生き残る。
オーストラリアでは、オニヒトデの産卵時期に陸で大雨が降ると、陸の汚れが海に流れて植物プランクトンが増え、多くの幼生が生き残ることが分かった。その際に、オニヒトデの成長を支える多くのサンゴがあると、その後、大発生が起きると考えられている。
沖縄でも60年代以降、10年以上続く大発生が何度も起きている。降雨量を見ると、69年の西海岸、72年の恩納村、75年の那覇・摩文仁などの大発生の3年前に大雨が降っている。西表や鳩間でも大発生が起きたが、大発生の期間は短く、陸上の環境が本島と違うからではないかと思っている。
96年には恩納村で大発生したが、その前の雨は少ない。93年ごろは、サンゴがかなり復活した時期。その時期にオニヒトデの幼生が一気にサンゴにつけば、すぐ大発生できる。
本島周辺は汚れが進んでいて、オニヒトデの幼生が多く生き残り、サンゴが戻ってきたら、いつでも大発生できる条件があるのではないかと考えている。今後も、雨や水質とオニヒトデとの関係を調査していきたい。