バリで考えた 今できること・体験記
インドネシア学習ツアー

 県内の中学生が、ヒトと自然とのあり方を考える「沖縄こども環境調査隊」(主催・沖縄タイムス社、共催・海洋博覧会記念公園管理財団)。6人の中学生が、8月14日から6泊7日の日程でインドネシアのバリ島を訪問、サンゴやマングローブの移植活動などを視察し、自然との共存を考えた。メンバーの体験記を紹介する。

サンディモニュメント30.jpg

デンパサール市内が見渡せるバジュラ・サンディモニュメントをバックに意気込むこども環境調査隊のメンバー

富永麻鈴さん(古蔵中3年)
逆の目線で考える

まりん.tiff バリ島では驚きの連続でした。最初に驚いたことは、気候が涼しかったこと、沖縄より暑いと思っていたのでびっくりしました。そして、海に潜った時には、魚やその他の生き物が沖縄と違い、色や大きさ等が異なっていた事も驚きでした。だけど、バリ島にはオニヒトデがいないのに、水温上昇の影響で沖縄と同じくらいサンゴが白化していることに驚きました。
 バリ島では、漁師さんたちが協力してサンゴを移植していました。乏しい費用で本当によく頑張っていて、とてもすごかったです。そのくらいサンゴは大切なのだな、と思いました。
 環境を壊すのはとても簡単です。しかし、それを元に戻すのはとても難しく、費用や人手、時間等ねばり強い努力が必要です。だからこそ、環境が壊れる前に動かなければなりません。だけど、そう簡単にはできません。だから、日々一人一人が自分にできる事をやることで、かなり変わると思います。みんながこのことを理解し意識できれば、沖縄の海は今よりももっときれいになると思います。
 沖縄では今、ジュゴンが生息する数少ない海を埋め立てようとしています。私は、バリ島の現状を見て、絶対に埋め立ててはいけないと思いました。シュゴンの来る海は世界中でも、とても少ないと聞いています。だから守るべきだと思います。
 沖縄とバリ島は、すごくよく似ていましたが、サンゴの白化防止などに取り組む姿勢は、沖縄より上回っていると思いました。
 バリ島では、環境に対して取り組みを競う祭りがあったり、小中学校が授業の一環で、サンゴを移植したりするそうです。これはとても素晴らしいことだと思いました。
 一人一人の小さな環境への配慮で、沖縄の海はもっときれいになると思います。これからは、私も今自分にできることをしっかりやりたいと思います。また、「サンゴやマングローブがなくなったらどうなるのか」のように、物事を逆の目線で考えることも重要だと思います。

バリの市場視察30.jpg

地元バリ人が通う市場など、見慣れない文化に触れた

知念信君(沖尚中1年)
僕は自然の一部分

しん.tiff 「因果応報」「僕は自然の一部分」。ぼくたち現代人は、この言葉を頭ではなく心に、いつも留めておくことが大事だと思います。海や自然環境を悪化させ、サンゴを含む生物が生育しにくい環境というのは、ぼくたち人間にとっても、生きていきにくい環境だと思うからです。
 クタビーチでは、2年半前に移植したサンゴがほとんど白化して、死滅していました。事前学習の時に聞いていましたが、写真や去年の調査隊の資料では、奇麗に広がる成長したサンゴと、そこに泳ぐたくさんの魚の様子が頭に残っていたので、現状を見てショックでたまらなくなりました。
 バリのサンゴについて教えてくれた環境技師のプラスさん(元プロ漁師)が「2~3カ月ほど目を放した間に、サンゴがほぼ全滅してしまった。理由としてサンゴが少しの温度の変化にも弱かったため」と話してくれました。そんな中でも生き残ったサンゴは大きく成長していて、一緒に潜ったプラスさんが、とびきりの笑顔でそのサンゴを指さしてみせてくれました。自分の手で植えたサンゴが育つ喜びが伝わってきて、とても心を打たれました。
 僕たちは海だけでなく、下水処理場やゴミ処理場、マングローブも視察しました。バリでは徐々に新しい機械やEM技術が取り入れられ、環境問題に取り組んでいました。しかし、ゴミ山の中のメタンガス問題や、たくさんゴミがからんだマングローブなど、豊かな自然を守るために早く改善しないといけない事が、まだたくさんあると思いました。マングローブでは、僕が見たくてたまらなかったミズオオトカゲを見たり、テッポウエビの“パンッ!”という大きな音を聞いたり、貴重な経験もできました。
 バリの体験を通して学んだ事は、知識だけで終わってしまってはダメという事です。便利なクーラーや使い捨て生活を、今の僕たちは本気で見直さないといけない。すごいスピードで、環境は破壊されるけど、元に戻すのは何倍もの時間がかかるからです。

マングローブ見学30.jpg

マングローブ見学ではそこに暮らす生き物を身近に感じた

〓枝晏梨さん(首里中3年)
海や自然を大切に

あんり.tiff 私はこのプロジェクトに参加するまでは、サンゴの大切さがよくわかっていませんでした。しかし、出発までの3回の学習会で、サンゴという生き物や、その大切さを知ることができましました。さらに、『コーラルトライアングル』地帯であるバリ島へ実際に足を運び、沖縄と違ったサンゴの保全の方法や大切さを知ることができました。
 サンゴがなくなると魚の種類が減ります。そうなると漁師さんの仕事がなくなります。また、サンゴが増える事で、海の中の色が増え、海の中が賑やかになる事がわかりました。初めて見るサンゴもたくさんあり、色とりどりでとても綺麗でした。
 サンゴを守るためには、1人の気持ちや力だけでは保護はできません。そこにたくさんの人々の協力が加われば、サンゴ保護のプロジェクトができることがわかりました。現地でそのプロジェクトに参加しているプラスさんも「大切な事は支援してくれるメンバー」と言っていました。
 また、サンゴだけではなく、バリの人々の生活や文化、宗教などについても深く触れることができました。バリ島の人々はヒンドゥー教徒で、島にはたくさんの神様がいます。大きく分けると風、水、火に分かれ、すべての人がお供え物をして毎日お祈りをしていました。バリの人々は信仰がとてもあつく、「サンゴをみんなで守る」という気持ちが1つになるのも、信仰のおかげたと思いました。
 バリの人は自然や海、そして風景をとても大切にしています。だから、魚や海の生き物のためにサンゴが必要性なことに気付き、その移植を始めたそうです。
 私はバリ島の現地調査をして、人と海はつながっていると思いました。そして大切なことは、自然を守る取り組みは、そこに住む人のかかわり方が大きく影響するということを知りました。つまり「人の気持ちで自然は変わる」という事だと思います。
 この経験を生かして、沖縄の自然保護についてみんなと考えてく必要があると思いました。

生徒と交流30.jpg

バリの学校を訪問し、たくさんの生徒たちと交流を深めた

※(注=〓はへんが「山」でつくりが「竒」)

下里雛乃さん(鏡原中1年)
信仰心あつい島人

ひなの.tiff バリでは、たくさんの発見がありました。例えば、家の庭や、飲食店の店先に“ほこら”みたいなものがあった事です。「これは何ですか?」と現地のガイドさんに聞くと「それにはヒンドゥー教の神様が祀られていて、毎朝お供え物をして拝むためにあります」と答えてくれました。それを聞いて私は、バリの人はとても宗教熱心だと感じました。
 また、バリでは海が荒れると、神様が怒っているサインだと考え、みんなよく祈りをささげたり、海をきれいにしたりするそうです。神様を大切にする気持ちが海をきれいに保ち、その結果、環境を守る事にもつながっていると感じました。
 視察3日目に行ったバリ島のすぐ隣にあるセランガン島で、海底に移植されているサンゴを見たり、移植に携わった人たちの話を聞きました。そのなかで、サンゴが激減したことが原因で魚も減ってしまい、このままでは今の漁師の仕事が無くなってしまうだけでなく、自分たちの子孫まで食べていけなくなると感じた地元の人々が、このプロジェクトを立ち上げたそうです。とても素晴らしい事だと感じました。
 また、「サンゴを移植してつらいこと、悲しいことは何ですか」という私の質問に「天気が悪くて海に出られない漁師の姿を見ることと、壊されたサンゴを見ることだ」と言っていました。それを聞いて私は、プロジェクトに携わっている皆さんの海やサンゴに対する思い入れの深さが、何があっても頑張ろうというエネルギーになっていると感じました。
 最近では、このプロジェクトのスポンサーも減り、政府からの資金援助も打ち切りになってしまったそうです。活動がとても厳しい状況に置かれているようですが、それでも前向きに頑張っている姿にも感動しました。
 バリでの体験を通して、今の沖縄の海とサンゴの現状についてもっと関心を持ってもらい、みんなで力を合わせて海を守っていく行動をすることが何よりも大切な事だと思いました。

バリ民族衣装30.jpg

華やかバリダンスの民俗衣装を着た子どもたちと記念撮影

東江大君(伊是名中1年)
地球温暖化を実感

まさる.tiff 僕は、テレビなどでバリ島を見て、海がきれいでリゾートホテルが並んでいる島をイメージしていました。しかし、現地に行って海に潜ってみると、思っていたよりも濁っていたのでびっくりしました。そして、移植したサンゴも水温上昇により死んでいるのが目立っていました。
 その時、僕はサンゴが死んだから海が濁っているのかと思いました。そうだとすると、やっぱり地球温暖化は、世界のどの国でも大きな問題になっていると身をもって感じました。
 また、僕たちは、海だけでなく、現地の人々の暮らしなども見ました。埋め立ての影響で、サンゴが絶滅の危機に直面しているセランガン島では、地元の漁師さんたちが政府の援助を受けずに、自分たちだけで自分たちの海を戻すプロジェクトを行っていました。「自分だったら、政府の援助を受けずに、このようなプロジェクトはできないなぁ」と思いました。
 その島の漁師さんたちは、自分たちの海を大切にして守りたいと切実に思っていることが伝わってきました。
 僕の住んでいる伊是名島もサンゴが年々、減っています。このバリ島視察を通してサンゴを守るため、海を守るため、地球を守るために今、自分が出来ることを考え、行動することが必要だと教えられました。
 そして、僕のバリ島での目的のひとつでは、沖縄とバリ島の海の自然と生き物の違いを確かめるということでした。マングローブ地帯でシオマネキ類を見つけたり、シュノーケルで海に潜って魚類を見た時に沖縄に生息している種類だということが分かりました。
 インドネシア諸島の海も沖縄の海も遠く離れていても同じサンゴ礁地帯で生き物も同じだということに改めて感動しました。
 僕たちもバリ島の人たちに負けないように、共に学び協力してこの美しい自然や生き物を守っていかないといけないということを感じました。環境調査隊としてみんなにも伝えていきたいです。

エイサーを披露30.jpg

バリの中学校では、生徒たちの前でエイサーを披露した

竹尾満里奈さん(石田中1年)
熱心なサンゴ移植

まりな.tiff 1日目にバリ島で出会ったのは、サンゴ移植プロジェクトを熱心に取り組んでいるプラスさんでした。プラスさんは真っ黒に日焼けしていて、とてもまじめな人でした。私たちのためにパソコンを使って、今取り組んでいるプロジェクトを丁寧に分かりやすく教えてくれました。
 次の日、プラスさんと一緒に実際に移植エリアへボートで行き、海にもぐってみました。事前学習会で、サンゴは海流が緩やかの方が育ちやすいと聞いていたけれど、恩納村でもぐったときよりもずっと流れが速く、こんなに波が荒いと、サンゴを移植する人も大変だろうと思いました。
 また、海水が濁っていて下のサンゴが見えにくいのが、とても気になりました。濁っていた事をプラスさんに聞いてみると「あれは、近くにあった建物や工場からでた排水だと思うよ」と言っていました。油や生活排水の汚れた水を、そのまま流したことによって海を汚してしまう。その時、初めて「ああ、こういうことか」と、私たちの日常生活が自然を破壊する理由を知ってショックを受けました。
 プロジェクトでは、全部で12000個のサンゴを移植したそうです。プラスさんも趣味で始めたダイビングをきっかけに、この取り組みを始めたそうです。「今の仕事はとっても楽しい」と言っていました。
 そして、バリの学校訪問では、私と同じ年齢のくらいの子どもたちと交流しました。「海にはどれくらい頻繁に行ってるの」と聞くと、当たり前のように「休みの日はほとんどだよ。海は大好きさ」と答えてくれました。
 バリは外国で言葉も食も文化も違う。でも、バリ人は心が温かく、サンゴを使って家を造るなど、沖縄に近いところもあった。なによりも同じ島んちゅとして、海やサンゴを大切にする気持ちは同じだと思った。それがプロジェクトを続け、成功させている理由になっていると感じました。
 バリ島で感じて学んだことを、私の周りの人へ発信するぞ。すべての人が海を通して笑顔になれるように。

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隊員たちは海に入り、移植されたサンゴを観察した

[記者同行日誌]
特別報道チーム 儀間多美子記者
人間の可能性 感じた旅に

たみこ.tiff 世界屈指のリゾート地、バリ。「しぜんをまもろう」という単純なスローガンに終わらず、島で人々が生きるための「観光資源」としての自然が、どれだけ重要かを考える旅となった。それはそのまま、沖縄の姿にも重なっていく。
 6人の中学生はたくさんの発見や疑問、課題を胸に日々を送った。サンゴが消えていく海に危機感を抱いた地元の漁師の行動に「自分ならどうする?」と自問自答。自然を“壊す”存在から“守り、ともに生きる”存在に変わるため、何をすればいいかを考えた。
 多くの動植物の息吹に触れながら、人間の可能性も感じたはずだ。沖縄に帰ってからが始まり。大いに頭を悩ませながら、前に進んでほしい。