2010年08月24日 【朝刊】

[息吹を感じて・沖縄こども環境調査隊](上)
サンゴ再生 生活に直結
インドネシア
漁師、移植活動に力

 県内の中学生6人が、インドネシアのバリ島で自然と人との在り方を考えた「沖縄こども環境調査隊」(主催・沖縄タイムス社、共催・海洋博覧会記念公園管理財団)。サンゴやマングローブの移植を学び、ごみ処理施設などを視察した。子どもたちは自然を未来に届けるため、それぞれが何をやるべきか、考えた。(特別報道チーム・儀間多美子)
 バリのクタ海岸は、2007年と08年、海洋博記念公園管理財団や県内の技術者の指導の下、サンゴの移植活動が行われた場所だ。開発で激減したサンゴは昨年まで順調に育っていたが、今年は海水温上昇で白化が目立つ事態となっていた。
 移植活動の地元リーダー、ラマディ・プラスティオさんから現状説明を受け、メンバーはシュノーケルを付けて海へ。足元のサンゴを見つめた鏡原中1年の下里雛乃さん(12)は「水温が1度違うだけで、すぐ死んじゃうんだ」。首里中3年の〓枝晏梨さん(14)は「この教訓を生かし、また対策が必要だと思う」と考え込む。
 バリは観光の島。砂浜を取り戻し、本来の自然環境を守ることは、そこに暮らす人々の生活にも直結する重要な課題だ。
 2日目、バリ島南のセランガン島で再びサンゴを観察した。カジノ計画による埋め立てでサンゴが壊滅した同島では、危機感を募らせた地元の漁師が力を合わせ移植を続けている。
 地元の漁師、ワヤン・パトゥさんは「多くの魚やサンゴがすむ海が戻り、それを観光資源に生活していけば、自然を守りながら生きていける」と夢を語る。
 ごみとなる発泡スチロールを土台にサンゴを植え付けるなど、工夫も満載。熱意は広がり、政府関係者も研修に訪れるという。伊是名中の東江大君(13)は「伊是名の自然も壊れている。古里を守りたい。僕は、ワヤンさんのようになれるかな」。自分の心に問い掛けた。
※(注=〓はへんが「山」でつくりが「竒」)

0824体験記30.jpg

地元の漁師が移植したサンゴの状況を確認。色とりどりの姿に子どもたちからは「きれい」の声=8月16日、バリ・セランガン島

2010年08月26日 【朝刊】

[息吹を感じて・沖縄こども環境調査隊](中)
川や海汚す生活のごみ
インドネシア
メタンガスで発電計画も

 自然の一員である人間は自然を壊す存在でもある。海を埋め立て、森林を切り開き、さまざまなごみは川を流れて、海に行き着く。
 4日目に訪れたJICAマングローブ情報センターで、川と海の境に生息するマングローブの根にたまった多くのごみを見た沖尚中1年の知念信君(12)は「入り口からずっとあった。一人が捨てたものが、集まってこうなるんだと思った」とつぶやいた。
 インドネシアは世界の25%、450万ヘクタールのマングローブが生息する、世界一のマングローブ保有国。多彩な生物がすみ、酸素を供給する貴重なこの植物を守るため、1992年からバリで保全計画が実施された。
 広大な再生林で、カニやエビなど生き物にも触れながら、トレッキング。歩き続けた先には広大な海が広がった。石田中1年の竹尾満里奈さん(12)は「本当に海に出た。自然と人間はつながっている。ごみは海に流れて海を汚し、人間は生きられなくなる」。
 避けて通れない問題を考えるため、ごみ処理施設や下水処理施設も視察した。積み上げられた廃棄物の山を抜け、生ごみから出るメタンガスを利用した発電計画を学んだ。
 世界でもあまり例のないシステムと聞き、古蔵中3年の富永麻鈴さん(15)は「生ごみから電気を生み出すなんて、いい考え。そんな取り組みを広げていくには、どうすればいいのかな」と考えた。(特別報道チーム・儀間多美子)

0826記者体験記30.jpg

広大なマングローブの森をトレッキング。先には海が広がっている=8月18日、サヌール・マングローブ情報センター

2010年08月27日 【朝刊】

[息吹を感じて・沖縄こども環境調査隊](下)
インドネシア
自然と人 つながり実感
音楽や踊りで異文化交流

 自然と向き合うヒントを探ろうと、調査隊はバリ南西部、海の中に立つヒンドゥー教のお寺、タナロット寺院を訪れた。激しい高波に浸食され、倒壊の恐れのあった同寺院は、日本のODAの援助を受けて護岸の補強工事が施された。
 信仰のあつい人々が次々と訪れる様子に、子どもたちは「バリの人にとってすごく大切なお寺だと思った」「工事しても30年しか持たないなんて、自然の力はすごい」「その時が来たら、次はどうするんだろう」。その土地の文化や歴史にも思いをはせながら、ヒトのかかわりを考えた。
 最終日には地元の中学校で、沖縄とバリ、双方の音楽や踊りを披露し合い、異文化交流も行った。
 旅程中、毎晩開かれたミーティングでは、思ったこと、感じたことを語り合った。「海と人とのつながりが印象的」「サンゴがなかったら、どうなるんだろう」「島の芸能がすごい。海や自然とのかかわりを調べたい」「ごみ問題は深刻」―。最終日には、各自がそれぞれの調査テーマにたどりついた。
 行く先々で、子どもたちに多くのメッセージを投げかけた海洋博覧会記念公園管理財団のサンゴ礁系係・山本広美さんは「〃サンゴを守るのは大切”という、当然、単純な枠におさまってほしくない」と語る。
 「ヒトが自然とかかわる方法はたくさんある。見て、肌で感じて、自分なりのやり方、考え方を探してもらいたい。行動できる人、になってほしい」と、期待を込めた。 (特別報道チーム・儀間多美子)

0827記者体験記30.jpg

後方が、浸食で倒壊の恐れのあったタナロット寺院。荘厳な姿に圧倒された=8月17日