森の未来 つながる暮らし
持ちたい 危機への想像力・変えたい 共生への行動力
ボルネオ島リポート
沖縄こども環境調査隊のシンポジウム「地球の声を伝えよう~森の仲間たちのメッセージ」(主催・沖縄タイムス社、共催・海洋博覧会記念公園管理財団、協賛・日本たばこ産業沖縄支店、沖縄海邦銀行、南西石油、沖縄コカ・コーラボトリング、沖縄ガス、我那覇畜産)が9月25日、県立博物館・美術館で開かれた。
8月15日から8日間の日程でマレーシア・ボルネオ島を視察した中学生8人が、現地の環境問題や保全活動について学んだことを報告した。隊員は全員で「ヤンバルやボルネオで学び考えたことを、一過性のものにせず継続して実行する」と力強く宣言。ボルネオの環境問題を自分たちの問題として意識することを誓った。また、NPO法人ボルネオ保全トラストジャパン理事で恩賜上野動物園教育普及課に勤務する黒鳥英俊さんによる講演も行われた。
ヤシ油消費大国の私たち
知名紗也加さん(琉球大学付属中1年)
玉城恵さん(沖縄市立美東中3年)
私たちが見たアブラヤシ農園は20万ヘクタールで沖縄県と同じくらいの広さです。ホームステイ先のビリット村の村長さんに「もし、ここが全部アブラヤシになったらどうしますか」と質問したところ、「別にそれでもいい。収入はいいからね」と答えました。
それを聞いて疑問に思いました。アブラヤシをたくさん植えてしまうと、もともと生えていた木と、共生していた動物や植物たちは、すみかが消えてしまいます。村長さんは身勝手だな…と思いました。だが、アブラヤシから作られるパーム油を輸入しているのは、私たちでした。
私たちの暮らしに欠かせない、インスタント食品やマーガリン・石けん・洗剤などは、どこで作られ、何が材料になっているか? 植物油脂、パーム油脂、パームオイルなどと書かれていればほとんどアブラヤシが使われています。
日本は地球温暖化、環境破壊が問題だと言っているわりには、この商品が何を材料に作られ、材料はどこから来ているかなどはあまり考えない。生活が豊かになったせいだと思います。
村長さんやマレーシアの人々には豊かな森に関心がないと言いましたが、私たちも自分の国の環境だけではなく、自分の生活の中に関わる環境問題をもっと深く知るべきです。
アブラヤシを栽培するための土地をつくるために、マレーシアでは森林が伐採され、オランウータンが減ってしまいました。オランウータンは一日ごとに寝床を変えます。寝床をつくるのは、とても背が高い木です。だから、アブラヤシには住めません。
オランウータンは住む場所が減れば、子どもを捨てます。私たちは、アブラヤシ製品を使うためにオランウータンの親子を引き離していると実感しました。
親に捨てられたオランウータンや迷子になったオランウータンを保護し、リハビリする「セピロック オランウータン・リハビリ
テーション・センター」に行きました。オランウータンの天敵は人間です。アブラヤシを植えるし、森を伐採するからです。でも、その人間が、オランウータンを保護しているなんて、複雑な気持ちでした。
自分の生活を振り返り、もっとできることはないか。パームオイルがボルネオの環境につながっているように、私の生活の先に何があるのか想像することを続けていこうと思います。
1本の木が支える生態系
上里美向(みいむ)さん(沖縄尚学付属中1年)
比嘉修斗君(読谷村立読谷中学校2年)
ボルネオにデラマコという地域があります。シンガポールと同じくらいの面積で、76%が「デラマコ商業林保護区」です。持続可能な森林管理を目指し、農業用と保護用に分け、保護用を政府が管理しています。
ヤンバルとデラマコでは、伐採の仕方が違います。ヤンバルでは立派な林道を作るためにアスファルトを敷き、車が通ります。すると土が圧迫され、植物が生えなくなってしまいます。デラマコでは林道を作らずに木を伐採します。チェーンソーで切った木はワイヤーで引っ張ります。切る木はワイヤーで引っ張れる範囲の木です。また雨の日は森に入らないようにしているそうです。土がゆるみ、川や海に流れ、汚染してしまうからです。
ヤンバルもデラマコも、伐採後は成長の早い松などの木を植樹します。「伐採された木からなっていた生態系は、崩れるのではないか」と僕は思いました。
でもデラマコでは農業用と保護用に分け、保護用は手を出していないから生態系が崩れないそうです。ヤンバルでは成長の早い木を植えた後は、自然の変化に任せているそうです。
皆さんは、ハイコンサベーションバリューという言葉を知っていますか。その場所の生態系を支えている木、水源などで「これをこわすことで、多くの生態系を崩してしまう」というものです。デラマコ商業林保護区のピーター・ラガンさんが教えてくれました。
私たちは、「マンガリス」という木を見ました。とても高い木でハチが巣をつくります。ハチの巣があると、ハチが受粉するほか、はちみつを求めて動物が寄ってくるのであたりの生態系は保たれます。
ヤンバルにもハイコンサベーションバリューの木があります。イタジイです。沖縄の固有種ノグチゲラはイタジイの実を食べ、そこに巣を作って暮らしています。ヤンバルテナガコガネやケナガネズミもイタジイに頼って暮らしています。
イタジイの木がなくなると、動物のえさや、すみかがなくなります。一本の木からなる生態系の大きさに気付き、一本でも無駄にしてはいけないと思いました。
私たちが沖縄のために、地球のためにできることは何でしょうか。一人ひとりが環境について知ることから始まると思います。森の仲間たちと私たちが共生共存する未来ができるように、できることを少しずつやっていきましょう。
自然守る大切さと大変さ
嘉手苅風花さん(沖縄三育中3年)
鈴木一平君(那覇市立鏡原中2年)
デラマコ商業林保護区で木の伐採を見ました。木が倒れる時の音が「痛いよ」と聞こえ、耳をふさぎたくなりました。ボルネオ島では輸出用の油を生産するたのアブラヤシを多く見かけました。日本も輸入し、私たちの生活に深くかかわっていることに驚きました。
ホームステイしたビリット村のハジー・アワン村長は「村の周りがすべてアブラヤシになってもかまわない。お金が入るからね」と話しましたが、疑問でした。
森がすべてアブラヤシになれば、動物は生息できません。固有種が多いボルネオ島の人たちは、豊かな自然の恵みに気づいていないのでしょうか。
森の生物多様性を国内外に伝えるための施設であるキパンディパークを経営するスティーブンさんは「将来的にはこの豊かな自然も虫も、失われてしまうかもしれない」と心配していました。
次の世代に自然を残すために何ができるでしょうか。
1つは計画的に木を切ることです。木を切って生活する人もおり、伐採を禁止することはできません。伐採後に植林することも必要ですが、生態系に与える影響に注意しなければなりません。
多様な生き物を守るために、学校の授業などで子どものころから自然に親しみ、興味を持ってもらう活動が大事です。ゲームで遊ぶことも悪いとは言いませんが、森で自然と触れ合うことも大切だと思います。身近な生き物に興味を持てば、自然破壊の問題についても考えるようになると思うからです。
自然を守ることはとても大切だけど、同時にとても大変だと学びました。自然のために何ができるのか。永遠の課題ですが、できることはたくさんあると思います。
例えば地域の植林活動に参加したり、必要以上に物を使わないことだったりします。少しの心遣いが、森林を救うことになります。「少しやったからいいや」ではなく、続けることがとても大切です。
森林を保護すれば、私たちの生活はきっと、もっと豊かになるでしょう。森林は二酸化炭素を吸収するので、地球温暖化を止めることにもつながります。
あなたには、地球の叫び声が聞こえますか。自然は私たちにSОS信号を送っています。その信号にどう答えますか。自然のために何ができるのか、何をしますか。
森の活用・保護 両立大事
外間睦海さん(宜野湾市立嘉数中2年)
大城一葉さん(沖縄クリスチャン学園中1年)
私たちが紹介するのは、民間の活動家であり、昆虫研究の第一人者でもあるスティーブン・チョウさんが運営する「キパンディパーク」という施設のことです。ボルネオ島の豊かな自然やそこに住む生物たちについて学習する場として活用する目的で運営されており、政府の全面的な支援も受けています。
スティーブンさんは自分の集めた虫たちの標本を見せながら「未来では、昆虫は図鑑のなかでしか目にできないものになるかもしれない」と話しました。その言葉を聞いた時の衝撃は、今でもはっきりと頭に残っています。
スティーブンさんは5年前、畑だった土地を地元の人たちを雇って、サバ州にある森の生物多様性の重要さについて地元の人や世界から訪れる人たちに伝えるためのパークをつくりました。
地元の人を雇うことによって、地元の収入につなげ「森が大切なこと」を広めています。そのことが、地元の人にとって森に関心を持ち、森の重要性や価値がわかることにつながっています。
次に紹介するデラマコ商業林保護区は、環境破壊の原因となっている木材生産の問題を減少させようという目的で、サバ州政府が管理している施設です。ここで行っていることは「計画的な伐採」です。
まず、事前調査で林道にしてもいい木は赤のペンキで印付けをしています。次に、木が60センチ以上120センチ未満か、果物の木ではないか、川までの距離が30メートル以内ではないかなどの制約をつくっています。これは保護区の生物たちの生活を壊さないようにという取り組みです。この項目に一つでもあてはまった木は伐採できません。
保護区は135区画に細かく分けています。一つ一つの地域にしっかりと管理を行き届かせるためです。これらのような取り組みは新しい森林保護の方法として注目すべきです。
キパンディーパークの考えは「森は人間が極力手をつけてはいけない」というもので、デラマコ商業林保護区の考えは「手をつけなければ人の生活が貧しくなってしまう。だから、無駄を省いて最低限にしよう」という考えだということが分かりました。
それぞれの立場が違っても、双方とも「森林は大切にしなければならない」という根本的な考えは違わないことが分かりました。
オランウータン救う廃ホースの橋
NPO法人ボルネオトラストジャパン理事・黒鳥英俊さん
動物園でのオランウータンの飼育には、園内を自由に移動できるよう、廃棄された消防ホースを活用して木に巻いている。ホースは非常に丈夫で、廃棄しているものを使うため、ほとんど費用もかからない。ボルネオでオランウータンを研究しているイザベラ博士が来園し、ロープを見て、ジャングルが減り森の中で孤立したオランウータンを救うために活用したいとの話があった。その後、森にホースを掛ける取り組みにかかった。
ボルネオのジャングルが減ったのは、植物油の原料となる油ヤシの農園が原因となっている。パーム油は食品や工業用のゴム、洗剤などいろいろなものに使われている。マレーシアやインドネシアが油ヤシを生産し、右型上がりで生産量が推移している。
オランウータンの生息地の減少と分断化は次の理由が上げられる。(1)パーム油プランテーションの開発(2)焼き畑農業などによる森林火災(3)伐採(4)採鉱(5)道路などのインフラ整備(6)人が持ち込むペット。この中で特に、パーム油プランテーションがこの地区の野生動物を脅かしている。ジャングルの川岸のぎりぎりまで油ヤシが迫り、オランウータンたちは川沿いでほそぼそと生活している。彼らは水を怖がって川の向こうに行けない。毎日同じ場所で巣作りをしたり、木の皮をかじって生活している。向こう岸には野生動物保護区があり、つながれば彼らも生きる道があるが、いまは完全に陸の孤島になっている。
イザベラ博士の相談を受け、わたしたちは孤立したオランウータンが川を渡れず動けない状態の場所に、3つの橋をかけた。メナンゴール川に消防ホースで橋を造るとき、地元の青年団ら25人くらいが来て作業をし、ロープをつなげた。最初、なかなかオランウータンは橋を渡ってくれなかった。だが、去年6月にはじめてオランウータンがわたったことを確認した。その後何度も目撃されたので、自由に行き来できているようになったと思う。オランウータンはどんどん減っている。動物園として現地に還元できることがないか、わたしたちも一生懸命取り組んでいる。外国のことだが、たどりたどると、わたしたちが毎日食生活に利用しているものにつながる。特に植物油は便利だが、オランウータンや象などとの共存を考えると、無駄遣いしないことが非常に大切。皆さんにも現地のことを知って、考えてもらいたい。
森の仲間たちのメッセージ
私たちは森林の生物多様性について調査するため、ボルネオ島のマレーシア・サバ州を訪ねました。ボルネオ島では現地の人にとって貴重な収入源であるアブラヤシ農園の開発により、世界の中でも貴重な熱帯雨林が減少する状況を目の当たりにしました。
アブラヤシからとれるパームオイルは知らず知らずのうちに私たちの生活になくてはならないものになっており、遠いボルネオのことでも自分たちの問題として意識しなければなりません。
その問題は決して簡単なことではありませんが、私たちは、自分たちにまずできることを考えました。
一つ、「動植物にも感心を持ち、正しい知識を身に付ける」
一つ、「自分の生活について振り返り、私たちの生活の便利さの先に何があるのか想像する」
一つ、「ヤンバルやボルネオで学び考えたことを、一過性のものにせず継続して実行する」
私たち一人にできることは小さいかもしれません。ですが、今回調査した8人それぞれが信念を持って行動することで世界を変えていきたいと思います。
私たちは世界を変えます!