森の声を聞いて
体験記 マレーシア・ボルネオ島
県内の中学生が環境問題について考える「沖縄こども環境調査隊」(主催・沖縄タイムス社、共催・海洋博覧会記念公園管理財団)。沖縄の中学生8人が、8月15日から7泊8日の日程でボルネオ島(マレーシア・サバ州)を訪れた。経済活動と森林保全の間で模索が続く島で、隊員たちは人間と自然環境の共生について考えた。メンバーの体験記を紹介する。(協賛・日本たばこ産業沖縄支店、沖縄海邦銀行、南西石油、沖縄コカ・コーラボトリング、沖縄ガス、我那覇畜産)
考えるきっかけに
大城一葉さん(沖縄クリスチャン学院中等部1年)
ボルネオは「世界の自然、生物多様性が凝縮された地域」と言われていますが、「世界の環境問題が凝縮した地域」でもあると感じました。なぜなら、同じ州の中に生き物の保護施設や、木を伐採する地域があるからです。広大な土地にパームヤシだけが不気味なほど整然と植えられているのを見ました。
現地でいろいろな人たちに話を聞きました。中でも印象に残る言葉があります。ホームステイ先の村長さんの「私たち村人は、森がパームヤシだけになっても構わない」と言うのに対し、保護活動家スティーブンさんの「私は、今私が見ているものを未来でも見られるようにしたい」という両極端の意見です。
村長さんは、現地住民の本音であり、パームヤシ産業が貴重な収入源です。しかし、私たちは今、自然が破壊されている問題に直面しています。地球環境を守るために努力している人々もいます。
これらの体験をむだにしないためにも、私たち世代がやるべきことは何か。そして、自然を守ることの大切さや、地球にできることを考える大きなきっかけになりました。
「関心」が環境守る
鈴木一平君(那覇市立鏡原中2年)
マレーシアは世界でも有数の生物の宝庫です。ボルネオ島のキパンディパークでは、昆虫博士のスティーブンさんにガイドをしてもらいました。マレーシアには固有種のクワガタ130種、カミキリムシ1200種がいると説明を受けました。
このパークはもともと、畑として使われていましたが、この森を守るためにスティーブンさんが木を切ることをやめるよう、住民に願い出たそうです。今は国から援助を受けています。もし、スティーブンさんの働きかけがなければ、開発が進み、日本では見ることのできない、珍しい昆虫も絶滅危惧(きぐ)種となっていたかもしれません。ボルネオ島では計画伐採など国を挙げて動植物の保護を推進しています。しかし、スティーブンさんは「現地の人は日本人ほど昆虫に興味を示さない」と言い、まだまだ住民との隔たりはあると感じました。
僕は「動植物に関心=地球環境を守る」ことだと思っています。地球上の多様な生態系を壊すことなく、自然と共存して生きていく方法を見いださなければならないと思いました。
みんなに伝えたい
上里美向(みいむ)さん(沖縄尚学付属中1年)
飛行機から見たボルネオは、パームヤシ、パームヤシ、そしてパームヤシ…。食用油や石ケンの原料になる木でボルネオにたくさんある一番の理由は、少ない労働力で大きな収益が得られるからです。ボルネオはパームヤシしかないのかなと疑問に感じていました。
しかし、ボルネオの山を散策していると、高い木がたくさんありました。その高木は現地でハイコンサベーションバリューと呼ばれていました。この木を切ると、生態系が崩れ、生物多様性に影響が出てしまうので、切ってはいけないと聞きました。理由は、ハチが巣をつくるためです。みつが動物を寄せつけ、ハチが植物の受粉もしてくれます。それだけで周囲の生態系が保たれているそうです。
私は、ボルネオ視察を通して感じたことは、人間の行動次第で環境は破壊されたり、守られたりするということです。
これから、ボルネオで見て聞いたことを地域の人々に伝えていきたいです。そして、環境を守っていくためにはどう行動したらよいかを考えていきたいです。
自然に目を向けて
外間睦海さん(宜野湾市立嘉数中2年)
「こんなに緑におおわれた森を今まで見たことがない」と感じました。調査が始まると、島の現実が見えてきました。空から緑に見えていたのは、車をいくら走らせても延々と続くアブラヤシの農園でした。大きな木は、私たちの家の家具や壁に使われるために伐採され、小さな木々は道を作るために切り倒されたそうです。
ボルネオ島でこのまま開発が進めば、先進国のようにビルが立ち並び、森に住む動物たちや、マレーシアに植生するラフレシアなどの貴重な植物を失ってしまうかもしれません。
このような環境破壊を食い止めようと、政府が動き、森を守る活動を現地の人たちと一緒に行っています。まだ始まったばかりの政策ですが、デラマコ商業林保護区で、むだな伐採を止め環境破壊を少なくする取り組みが行われています。ボルネオ島では、このように協力し合って自然環境を守ろうとしています。
私たち沖縄はどうでしょうか。観光の島、沖縄だからこそ自然の大切さをもっと理解しなければいけないと思いました。
パームヤシに驚き
玉城恵さん(沖縄市立美東中3年)
ボルネオ島視察の中で一番印象に残ったのは、デラマコ商業林保護区で実際に木を伐採している光景を見たことです。木を切り倒した後、木の切り口からは樹液がたくさん出てきていました。
コタキナバルでは、オランウータン保護施設に行きました。そこでは親に捨てられたオランウータンの子どもを保護し、人間が野生の育ち方を教えるという活動をしていました。
昔は野生動物が多かったそうですが、人間が森を変えてしまい、動物たちの住む環境が減ってきているのが現状です。少しずつでももとの森になってほしいと思いました。
移動中の景色は、ずっとアブラヤシでした。飛行機から見たら小さく見えたのに、実際には広大なパームヤシ農園が広がっていて驚きました。
ビリット村でのホームステイでは現地の人の生活、文化に触れることができました。今回、沖縄では見られない植物や動物などが見られてうれしかったです。
環境問題を知らない人たちに伝え、もっと多くの人が環境活動に取り組んでほしいと思いました。
共生の大切さ学ぶ
比嘉修斗君(読谷村立読谷中2年)
ボルネオ島のデラマコ商業林保護区やキパンディーパークという場所を訪れ、現地の人から生物多様性と環境について話を聞きました。
ボルネオでは、僕たちの生活に必要なアブラヤシの農場開発のため、木が伐採されています。昔は、ボルネオの80%が森でしたが、今では約50%の森しか残っていないそうです。アブラヤシは、せっけんなど生活用品の原料となっています。それを知って僕は、生活に必要な物が環境破壊につながっていることにおどろきました。デラマコ商業林保護区のピーターさんによると、「伐採した後は、植林はする」と聞き、伐採した後に植林をすることは、森にもいいし、人のためにもなっているとあらためて思いました。
ボルネオ視察では、日本では見られない豊かな自然を体感しました。また、ホームステイ先のビリット村で、家屋のつくりや食事など日本とは違う文化にふれる事ができました。調査隊の経験を通して、僕は森と人が共生していく大切さを学びました。シンポジウムでは、ボルネオで学んできたことをみんなに伝えたいです。
開発の犠牲大きく
知名紗也加さん(琉球大学付属中1年)
オランウータンの悲しげな表情や、木を切り倒れるときの悲鳴のような音、生物が共存しにくいアブラヤシの林は、兵隊を整列させたかのような異様な光景でした。私たちが見たアブラヤシの畑はすごく広く、パッと見て、豊かな森林と思いきや、同じ高さ、同じような色合い、形をしたアブラヤシのプランテーションでした。そして、このヤシの木々が結果的に環境破壊の原因になっていました。その犠牲は大きく、多くの動植物が失われたそうです。
私は環境調査に参加して考え方が変わりました。省エネをすることで、環境破壊をくい止めているつもりでしたが、マレーシアでは私たちが毎日使うせっけんや洗剤、マーガリンなどの原料のために貴重な森が伐採されています。
人々の生活が豊かになり、便利さを求め続けてきました。そのせいで人間は、森林や生態系を崩しています。便利さだけを追求するのではなく、先人の知恵を生活に取り入れ、工夫することで環境破壊を減少し、自然と共生することはできないものかと思いました。
残そう貴重な自然
嘉手苅風花さん(沖縄三育中3年)
私は、ボルネオの自然が危機にひんしていると感じさせられました。調査の際にキパンディパークという場所を訪れました。そこはとても自然が豊かで虫もたくさんいるようなきれいな場所でした。しかし、このパークも5~6年前ははげ山だったそうです。そこに勤務するスティーブンさんは「将来はカブトムシなども、絵本や図鑑でしか見ることができなくなってしまうかも」という言葉に驚きました。
実はボルネオ島の保護林は一ケタで表せるほどしかなく、その森林にはたくさんの動物が暮らしています。オランウータンはパームヤシに住むことはできません。ボルネオは固有種が多い島で、ここで失われてしまったものは、きっと世界のどこを探してもいないと思います。
私がこの調査隊で強く感じたのは「一生懸命に環境を直そうと頑張っている人たちと一緒に環境を守りたい」という気持ちでした。今残されている自然を次の世代に引き継ぎたいです。そのためにもこれからも一生懸命に調査をして、たくさんの人に状況を伝えたいと思いました。
記者同行記
湧田ちひろ記者(沖縄タイムス社北部支社)
隊員の成長ぶり頼もしさ感じる
アブラヤシ農園開発のため、森林伐採が進むボルネオ島。一方で、政府が森林保護を目的に計画的伐採区域を設ける「デラマコ商業林保護区」と、民間が動植物を保護する「キパンディ・パーク」の取り組みを調査隊は視察した。
方法は違っても、地元住民の経済活動と自然保護の両立を図る目的は同じだ。森を守る活動を持続可能にするため、地元の理解を得ようと努める人々。「森と人との共生」のあり方について、隊員は考えた。
「自然はすべてつながっている。つり合いが大切なんだ」。鏡原中2年の鈴木一平君(13)は最終日のバスで旅を振り返った。「家のヤシの実洗剤が、ボルネオにつながっていた」。自分の生活と世界のつながりを感じ取った隊員たち。一人一人が考えたことをしっかりと話す姿に、大きな成長と頼もしさを感じた。