2011年08月27日 【朝刊】

[共生の森を訪ねて・沖縄こども環境調査隊](上)
「森が全部農園に?」
利用と保護 両立探るボルネオ

 熱帯雨林が広がるマレーシアのボルネオ島を視察した「沖縄こども環境調査隊」(主催・沖縄タイムス社、共催・海洋博覧会記念公園管理財団)は、15~22日の日程で、環境問題や自然保護活動を調査した。アブラヤシ農園拡大による森林破壊と、政府や民間による自然保護の取り組みを学んだ隊員は、開発と環境保全がせめぎ合うボルネオで、自然と人の共生の在り方を考えた。
 ボルネオ島サンダカン空港に向かう機内上空で、地平線まで広がるアブラヤシ農園の景色が隊員の目に飛び込んだ。植物性油脂の原料となるパーム油の高騰で、マレーシアでは農園拡大のため森林伐採が進んでいた。
 視察3日目の17日、ビリット村で開かれた住民との交流会。琉大付属中学校1年の知名紗也加さん(12)は、農園開発などで8割から5割まで減った村内の森林の状況を知り、ハジー・アワン村長(67)に尋ねた。「森が全てアブラヤシ農園になったらどうしますか」。アワン村長は、植林を行っており動物への影響も少ないと説明した上で、「アブラヤシの収入はいい。全部つくっても構わない」と答えた。
 隊員は翌18日、商業伐採のための土地利用と森林保護の両立を目指した「デラマコ商業林保護区」を視察した。同保護区は、サバ州が管理する5万5139ヘクタールの敷地を135区画に分け、計画的に商業伐採を行う区域と、手を付けない保護区を設定している。
 伐採区域では、直径120センチ以上の樹木や果樹の伐採を禁止、皆伐をせず、伐採した木は1本ずつ空中ケーブルを使い搬出する。植林を行い林地の回復を図るなど、環境に配慮した方法で、持続可能な森林管理と林業を目指す。出荷された木材は、FSC(森林管理協議会)の認証を受け、欧米各国が率先して購入しているという。
 サバ州政府森林局のピーター・ラガン氏は「将来の世代のため貴重な森林を残すのが目的。自然への負荷を減らした伐採方法を世界に知らせたい」と話した。
 読谷中学校2年の比嘉修斗君(13)は「問題の解決には時間がかかるけど、今一番合ったやり方を見つけるため、意見交換することが大切だと思う」と考えた。(北部支社・湧田ちひろ)

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デラマコ商業林保護区の取り組みを説明するピーター・ラガンさん(手前左)=18日、マレーシア・ボルネオ島

2011年08月28日 【朝刊】

[共生の森を訪ねて・沖縄こども環境調査隊](下)
住民関わり保護継続
沖縄の子 世界とつながり実感

 マレーシア・ボルネオ島のコタキナバル空港に降り立った調査隊は、ボルネオの希少な植物や昆虫などを飼育、展示している「キパンディパーク」へと向かった。
 パークを経営する昆虫学者スティーブン・チュウ氏は、クロッカー山脈中腹のキパンディ村周辺で、昆虫の新種を数多く発見している。チュウ氏は生物多様性の宝庫の一つであるボルネオの貴重な自然を守ろうと、地元住民を説得し、農地だった場所で植林し、15エーカーのパークを設立した。
 「地元の人は当たり前にある森の貴重さに気付いていない。人間活動で森林が減り、将来は標本の中でしか虫を見ることができなくなるかもしれない」とチュウ氏は危機感を抱く。
 パークの見どころは夜、光に集まる多種大量の虫の観察会だ。クワガタ、カブトムシ、バイオリンムシ。見たことのない大きな昆虫に、隊員らは目を輝かせた。
 沖縄三育中学校3年生の嘉手苅風花さん(14)は「将来この虫がいなくなってしまうなんて…。自分にできることは分からないけど、何かしたい」と考えた。
 同パークのスタッフには地元住民9人を雇用する。「活動を続けるためには、地元の人がかかわることが大切」と語るチュウ氏は、環境観光で現金収入が入ることで、自然保護と経済活動の両立を目指す。
 鏡原中学校2年生の鈴木一平君(13)は「人間が生きるためには森が必要。森と人はつながっていて、うまくいくような共生の道を探したい」と思いを強くした。
 旅に同行した海洋博覧会記念公園管理財団総合研究センター研究第二課主任技師の峯本幸哉さん(36)は「ボルネオの生物多様性を維持するため、政府と民間の手法は違っても、自然をどうにかして次の世代に伝えたいとの共通した思いをすごく感じた」と振り返る。「『普段使うせっけんがアブラヤシにつながっているかもしれない』と、自分の行動が世界につながっていることに気付けたことが、子どもたちにとって一番の成長の証しだ」とよろこんだ。(北部支社・湧田ちひろ)

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「将来、標本でしか見られなくなるかもしれない」。スティーブン・チュウ氏(右)から話しを聞く隊員=19日、マレーシア・ボルネオ島キパンディパーク