2009年04月20日 【朝刊】

[自然を未来へ・沖縄こども環境調査隊](上)
マングローブ
自ら植林 喜び実感

 環境問題に直面する海外諸国で子どもたちが自然保護活動などを調査する学習ツアー「沖縄こども環境調査隊」(主催・沖縄タイムス社、共催・海洋博覧会記念公園管理財団)隊員の中学生4人が、3月31日から4月6日の日程で、インドネシア・バリ島を訪問した。隊員たちは、マングローブの特徴や生育環境、ごみ処理問題などを調査。自然の役割を見つめ直し、自分たちにできることを考えた。
 総面積1375ヘクタールの広大な敷地内に約30種のマングローブがある、マングローブ情報センター。1992年から、一帯の植林に携わる琉球大学の馬場繁幸教授は「昔この辺りには、何もなかったんだよ」と何度も口にした。
 世界最大規模のマングローブ林があるといわれるインドネシア。だが、バリ島ではかつて、エビ養殖池や商業用地などをつくるため、マングローブの過剰伐採が深刻な問題になった。観光開発と自然保全が?せめぎ合う?中、90年代から植林が進んでいる。
 JICAとインドネシア林業省が共同で保護する同センター内には、マングローブが生い茂っていた。90年代は35種類ほどだった鳥も今では100種を超え、カニや魚も息づき始めた。「生き物たちの楽園」がよみがえりつつある。
 喜瀬武原中2年の伊差川舜君(13)=恩納村=は「マングローブがあれば、生き物が豊かに生きられる」と実感を込めて話した。植林も体験。失われたマングローブの再生には、自分たちが積極的に育てていかなければならないことを学んだ。
 だが、マングローブ再生には時間と労力、コストがかかる。伊江中3年の知念栞菜さん(14)=伊江村=は「今すぐいい案は浮かばないけれど、自分の手で植えられてうれしかった。みんなでマングローブを保護できたらいいと思う。自分も何ができるか考えて、行動していけるようにしたい」と話した。(社会部・嘉数よしの)

マングローブについて学ぶ.jpg馬場教授(右)から、オオバヒルギの植え方を教わる隊員たち=2日、マングローブ情報センター

2009年04月21日 【朝刊】

[自然を未来へ・沖縄こども環境調査隊](中)
ごみ処理問題/現状学び伝える側へ

 マングローブが再生し、「生き物たちの楽園」がよみがえりつつあるインドネシア・バリ島のマングローブ情報センターは、新たな課題に直面していた。
 生い茂るマングローブの根元にたまる、大量のごみ。沖縄こども環境調査隊の中学生4人は、ぼうぜんとした。同センターの羽鳥祐之チーフアドバイザーは「いくら掃除してもきれいにならない。どうしたらいいだろうか」と問い掛けた。
 ごみは周辺集落から流れ込んでいた。バリ島にはごみの焼却施設がなく、ごみは海や川に流すか、埋め立て処分。同センターの職員が地域に赴き、マングローブが環境保全や生物の食物連鎖の役割があると説明するが、理解を得るのは難しいという。
 隊員たちの案内役を務めた琉球大学の馬場繁幸教授は「沖縄にとってはごみの分別処理は当たり前でも、バリ島には施設がない。施設があっても有害物質が出ないように焼却するには、お金がかかる。私たちの常識は、海外では常識ではない」と語った。
 同センター視察から数日後、隊員4人はバリ島のごみ処理問題を考えていた。
 「ごみを燃やすのもお金がかかるし、バリの人はどうしたらいいか分からないかもしれないね」
 「みんなが協力しないといけないことだよ。もっと調べて考えよう」
 自然の役割を見つめ直してきた隊員たちは具体的な取り組みは見いだせなくても、自分たちに何ができるかを考えようとしていた。
 那覇中1年の新崎聖華さん(13)は「ごみの問題は世界の国々の協力があって解決できると思う。バリの人には少しでもごみを減らせるように努力してほしいし、自分もたくさんの人にバリの現状を伝えたい。まずは沖縄の環境からよくしていきたい」と決意を見せた。(社会部・嘉数よしの)

ゴミ撮影.jpgマングローブ林にたまったごみを撮影する新崎聖華さん=2日、マングローブ情報センター

2009年04月22日 【朝刊】

[自然を未来へ・沖縄こども環境調査隊](下)
馬場教授に聞く
世界の常識 意識して

沖縄こども環境調査隊隊員の中学生4人は、インドネシア・バリ島で1週間、マングローブの生育環境やごみ処理問題、自然保護活動を調査したほか、世界的な観光地バリ島の文化にも触れた。案内役を務めた琉球大学の馬場繁幸教授(国際マングローブ生態系協会事務局長)に学習ツアーの意義や目的を聞いた。
 ―子どもたちに何を学んでもらいたかったか。
 「マングローブの現状やバリ島の環境問題、自然保護と観光開発の?せめぎ合い?を実際に見ることで、心動かされるものを見つけてほしかった。マングローブ林が元に戻るには、時間と労力、お金がかかることも知ってもらいたかった」
 ―バリ島と沖縄のマングローブの問題点は。違いはあるか。
 「バリ島など、マングローブが少なくなった所では再生活動が進んでいるが、沖縄では漫湖でマングローブが伸びれば、景観を邪魔すると切られてしまうことがある。これは、十分に将来を想定せずに道路や河川改修設計をしたために起こったこと。計画の不十分さを問題にしないで、マングローブが悪いと切ってしまうのは考え直してほしい」
 ―多くの観光地を訪れ、さまざまな文化にも触れた。
 「バリは観光の島。景観や文化を守るため、ヤシの木より高い建築物を建てることができない。子どもたちには、バリの短所だけでなく長所にも触れ、観光客が何を求めて訪れているのかを考えてもらいたかった。沖縄がいいと言う前に、世界を知る必要がある」
 ―子どもたちに身に付けてほしいことは。
 「私たちの常識が、海外では常識ではないということを意識してほしい。相手国の社会、環境教育の現状を認識し、共通の認識を持たなければ意見交換することはできない。人の話にきちんと耳を傾けるなど、最低限のマナーを身に付けた上で体験を積んでほしい」(聞き手=社会部・嘉数よしの)

馬場先生.jpg沖縄こども環境調査隊に、バリ島の環境問題を伝える馬場繁幸琉大教授=4日、バリ島・キンタマーニ