外来種のヘビ、ナンヨウオオガシラが軍事物資に紛れて持ち込まれたため、自然界では絶滅状態となったというグアムクイナ。地元では政府の施設で飼育・繁殖の試みが始まり、自然界へ戻すため外来種のいない島に放鳥する取り組みが続いている。沖縄ではヤンバルクイナがマングースやノネコなどの外来種により絶滅が危惧(きぐ)される。その土地にもともとあった生態系を守るにはどうすればいいのか―。4人のグアム調査隊は同クイナの飼育下繁殖施設や、固有の野鳥を絶滅に追いやった外来種の研究施設を訪ね、学んだ。

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環境調査隊の視察に同行し、全面的に協力してくれたスーザン・メディナさんと記念撮影するグアムクイナチームのメンバー=8月20日、ロタ島のロタ国際空港

【グアムクイナの現状】
 外来種であるナンヨウオオガシラは、軍事貨物船に「密航者」として乗りこみ、1950年代にグアムに持ち込まれた。それから30年、このヘビは、グアム固有の野生動物の多くを食い殺してしまった。沖縄にとってはマングースの問題がそうです。グアムと沖縄は、この数百年の間に導入された動物、たとえばイヌやネコ、またはネズミなどが野生化してしまったことなど、多くの点で共通点を持っている。万が一、島の固有種がいなくなってしまったとしても、それらの動物のことを決して忘れてはいけません。その固有種がいたという記憶がなくなってしまえば、自然を取り戻そうという気持ちさえも消えてしまいます。私は沖縄の若い世代に、ヤンバルクイナの生態を守り、繁殖を助ける活動を継続してほしいと思います。(グアム水生野生生物資源局 スーザン・メディナ)

隊員レポート

宮里政吏(国頭中3年)
一人一人が意識を持って行動に

 「グアムクイナがいるところだから、鳥がたくさん生息するところなんだろう」と、僕はわくわくしてグアムに行きました。しかし、グアムで最初に気付いたのは、鳥の鳴き声がしないことです。なぜなら、人間が持ち込んだナンヨウオオガシラという1種類のヘビが、グアムの野鳥を食べてしまったからだそうです。
 グアムクイナを研究しているスーザン・メディナさんの案内で外来種対策センターを訪問した時、そこの男性職員が「グアムにいた13種類の鳥のうち11種類も絶滅させてしまった」と言っていました。僕は驚きと一緒にこのヘビも、ヤンバルクイナを襲う外来種のマングースとの関係に似ていると思いました。
 また、グアムクイナの飼育下繁殖施設では、スーザンさんが僕たちにグアムクイナを見せてくれました。ヤンバルクイナと比べてみると、小さくて色は全体が黒く、僕はグアムクイナに触ったりするという体験もさせてもらえてとても感動しました。
 この施設では、マリアナショウビンなどいろいろな鳥がいて、グアムクイナもたくさん飼育されていました。しかし、そこで飼育されているカラスは2羽がオス、1羽はメスで、そのメスが病気で卵が産めず「これがグアムにいる最後のカラスになるかもしれない」とスーザンさんが言っていました。「もし、このようなことがヤンバルクイナにも起こってしまったら、僕たち人間はどうしたらいいのか」と考えさせられました。
 グアムクイナを自然界に戻す取り組みや、その活動に携わる人たちとの出会いを通して感じたことは、環境を壊すのは人間だけど、もとに取り戻すのも人間の力が必要だということ。一人一人が環境への意識を持ち、できることから自然保護を考えていけば、この地球を守れるということをこの視察で学びました。

掘井紗ら(伊原間中1年)
野生で生きるクイナの声に感激

 私が一番印象的だったのは、ロタ島でのグアムクイナの放鳥体験です。グアムクイナ研究者のスーザンさんたちが、グアム島で飼育したクイナ12匹を隊員4人で放鳥しました。
 グアムクイナは、すでに野生では絶滅していて、放鳥したのは人間が卵の時から育ててきたクイナです。生まれたときから狭いケージのなかで人間に育てられたクイナを、広い自然界に急に放すとどうなるだろうか。私がグアムクイナの立場だったら、とても不安で怖くてたまらなかったと思います。でも次の日の朝、スーザンさんと、放鳥したクイナの生存を確認するプレーバック調査に行きました。プレーバックとは、録音したグアムクイナの声を流し、クイナの生存を確かめる調査です。
 最初は、ほかの生き物の鳴き声しか聞こえず、「もうだめなのかな。ここのクイナは、生き残れなかった」とあきらめかけていたとき、キョッ、キョッというクイナのかすかな鳴き声が聞こえてきました。その声はだんだん大きくなっていきました。「やったあ、生きている。がんばって生きていたんだ」と私はとても感動しました。スーザンに聞くと、このクイナは何年か前に放鳥したメスのクイナだそうです。野生で元気に生きているクイナの声が聞けて安心しました。
 クイナの飼育繁殖、そして放鳥する活動を見て体験し感じたことは、一度絶滅した動植物や失った自然をもとに戻すことはものすごく時間がかかり、たくさんの人の力が必要だということを実感しました。
 私も身近でできること環境保護を考えてみました。たとえば、犬の散歩のついでにごみを拾うと、ウミガメがビニール袋と間違えて食べてしまうこともなくなります。こんな小さなことからでも一人一人が心掛ければ、大きな力になると思います。

山根麻美(高江洲中2年)
次の世代に自然残す取り組みを

 私がグアムの視察で一番驚いたことは、一種類のヘビがグアムクイナをはじめ13種類いたグアムの在来の野鳥を絶滅させたということです。私たちは視察初日、そのナンヨウオオガシラというヘビを研究している外来種対策センターを訪問しました。
 同センターでは、全長150センチのミナミオオガシラに触れることができました。思った以上に力が強く、ヘビに襲われたグアムクイナは、ひとたまりもないと思いました。同センターの職員は、ヘビを処分するとき、敬意を払っていると言っていました。わたしは、その言葉を聞いてとても心が痛みました。
 グアムクイナを守るためにはヘビを駆除しなければならない。しかし、もともとヘビをグアムに持ち込んだのは人間。ヘビは別に悪くないのに処分しなければいけないのか、とても悲しくなりました。
 このように、私たち人間がきちんと考えて行動しなければ絶滅してしまう動物が増えていってしまうということです。
 私がグアムで学んだことは、これから自分が沖縄でのいろいろな取り組みにつながる経験になりました。
 外来種がグアムの多くの野鳥を絶滅させたことは、決してグアムだけのことではなく、沖縄でも起こりうることだと思う。
 人間が便利な生活ばかりを求めて、山や森の木を次々とばっさいして、開発を進めていくと自然のバランスが崩れ、動物たちの住む場所が減っていくと思います。最後は、人間も住めない環境になっていくということです。
 一度失った自然や生き物たち、生態系はもとに戻すのはとても難しいことだということをグアムの視察で感じました。だから、今ある自然環境を守り、私たちの次の世代に残していくことがとても大切だと思いました。

外間新野(坂田小6年)
「ペット大切に」が僕の環境保護

 僕がとても印象に残ったのは、スーザンさんの働いているグアムクイナの飼育下繁殖施設です。そこで僕たちは、グアムクイナや絶滅しそうになっているカラス、マリアナショウビンへのえさやりや、えさ作りを体験しました。
 えさは、生きたミルワーム(昆虫の幼虫)や、冷凍したコオロギ、ヤモリなどです。あらかじめつくってあったグアムクイナのエサに、生きた3匹のミルワームを入れてから、グアムクイナの施設に持って行きました。
 その時、同施設で働くダンティさんに「ミルワームを食べてみないか」と言われ、勇気を出して恐る恐る食べてみました。生きている虫を食べるのは初めての経験でしたが、思っていたよりも後味がクリーミーでおいしかったです。
 ほかにも、マリアナショウビンはオスとメスペアで飼育され施設には巣があり、その卵を巣からスプーンで採ってライトを当てて観察しました。卵の中ですくすく育つひなの成長を見ることができました。周りで親鳥が怒って鳴き声を上げていたので少しかわいそうでしたが、ちゃんと元気に卵からふ化してほしいと思いました。
 また、この調査隊で一番ショックを受けたのが、かい主に捨てられ野生化したネコやイヌが、グアムクイナやヤンバルクイナを襲い殺してしまうということです。
 僕は家で犬とネコを飼っています。飼い主に捨てられたネコが、ヤンバルクイナを襲う例も報告されています。もし、僕が自分のイヌやネコを無責任にヤンバルクイナのいる森に捨ててしまったら、いつかヤンバルクイナを襲って食べてしまうかもしれません。だから、僕ができる身近な環境保護の取り組みは、飼っているペットを大切にすること。愛情を持って最後まで育てることだと思います。

記者同行日誌

今後の隊員の活動に期待
北部支社・前森梓

 希少種保護について沖縄とグアムの違いは、沖縄ではヤンバルクイナ保護に地元がより積極的なことだ。グアムでは外来種の移入で1980年代に自然界からは絶滅してしまったグアムクイナを知る20代以下の人は少ない。興味を持とうにも「グアム固有の生態系」を知らない子が多いのだ。生物学者のスーザンさんは調査隊の4人に「沖縄の子どもたちが興味をもって学んでくれて、うれしい。グアムクイナを知ることで環境をより良くすることを考えてほしい」と話していた。
 メンバーは、保護の現状に触れることで「生態系の破壊は外来種が悪いんじゃない。身勝手な人間の行動を変えないといけない」と日に日に考えを深めたようだ。「ヤンバルクイナが野生で生息している」沖縄の今の状況がどれほど貴重か。グアムクイナ保護に取り組む研究者らの期待をしっかり受け止めてほしい。

協力
LinkIconNPO法人どうぶつたちの病院