マレーシアを訪れた調査隊(中学生4人)のテーマは自然との共生。日本から飛行機を乗り継いで約13時間、さらにバスで3時間の場所にあるボルネオ島のジャングルで野生動物を観察し、オランウータンの保護施設を訪れた。実際に森を切り開いている光景は見られなかったものの、広大なパームヤシ農園を目の当たりにし、メンバーは現地住民の生活と自然環境保護について考え始めた。そのほか、水上集落で生活する一家と交流したり、イスラム教のモスクを訪れるなど、マレーシアの自然だけでなく文化にも触れる場になった。

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水上集落で生活する一家と交流したメンバー=8月26日、ボルネオ島サンダカン

【マレーシアの現状と課題】
 サバ州には現在、原生林はわずか20%しか残っておらず、開発で多くの貴重な動植物が絶滅したに違いない。キナバタンガン川の縁林では、固有のテングザル、アジアゾウなどがみられたが、本来の原生林ではこれだけの動物を一度に見ることは不可能だ。行き場を失った動物たちはわずかに残っている川べりの森へ逃げ込み、隔離されているからである。今後、農園をさらに拡大する必要があるという一方で、森林保全の拡大、観光税の制定、地域住民への環境に対する普及啓発事業を推進するなど、この地域でも「自然との共生、共存」という言葉が見え隠れしてきたようだ。皮肉にも、我々の生活は、ボルネオ島からの木材とアブラヤシの製品に依存している。単に地域に限らず世界的な規模での重要な課題であることを一層感ずる。(海洋博覧会記念公園管理財団・常務理事 花城良廣)

隊員レポート

小禄健人(沖尚中2年)
自然守るのも壊すのも人間次第

 首都クアラルンプールに着いて、高層ビルと美しい建築物が立ち並んでいる光景に驚きました。僕の描いていたマレーシアはゴム園やヤシ園、野生動物が住む広大なジャングルのような場所をイメージしていたからです。それと同時に僕の描いていた緑豊かな大自然が破壊されているのでは、という不安に駆られました。しかし、サンダカンに移動すると、想像していたように、キナバタンガン川の周りに木が生い茂り、ゾウやオランウータン、テングザルなどを間近で見ることができて感動しました。
 現地ガイドから、パームヤシ育成のために森林を破壊しプランテーションが作られているということを知りました。パームヤシは食用油やせっけんなどの原料になり、ゴム園に比べて労働力が少なくて、収益が大きいからだそうです。プランテーションを造るということは、森が分断され動物たちが森と森の間を行き来できなくなってしまいます。生態系を狂わせ、動物たちを絶滅の危機に追い込んでいるのです。しかし、現地の状況を知るととても複雑な気持ちになりました。現地の人も生きていくためには収入が必要です。パームヤシをなくすと、彼らの生活を奪うことにつながります。
 僕は、森林を破壊せずパームヤシを育成できる場所があれば人間にとっても生き物たちにとっても良い環境になると思います。実際に日本でもパーム油は洗剤やスナック菓子の原料に使われ、日常生活に欠かせないものになっています。
 今回の調査を通して痛感したことは、自然を守るのも破壊するのも人間次第ということです。豊富な植物と昆虫、生き生きと暮らしている動物たちを自分の目で見ることができました。この自然を守るためにも、これからさまざまな環境問題に積極的にかかわっていきたいです。

山城真紀(大宜味中1年)
人ごとでなく身近な問題として

 サンダカンからスカウに向かうまでの車から見た景色は、パームヤシ畑で埋めつくされていました。飛行機から見た景色は、森のような自然が広がっていると思っていたので、スカウのロッジに着くまでの道の両側にパームヤシ畑が続いていて驚きました。道の側に電気が流れているワイヤが引っ張られていて、畑に動物が入れないように囲いがされている所がありました。現地の人たちはパームヤシを植えて売ることで、お金がもらえて生活ができます。パームヤシはせっけん、マーガリン、燃料などの原料になり、作ることは自然を壊すことになりますが、大切な原料です。
 現地の人からは「私たちと自然どっちが大切なの?」という意見があります。パームヤシを植えて貧しかった人たちが裕福になって満足しているけど、自然がなくなります。パームヤシがなくなったら現地の人は困るし、安定した環境になるにはどうすればいいのかよくわかりません。こうした難しい問題は、世界みんなの問題です。いろんな人の意見や考えを参考にして、パームヤシと森林の事を解決して、現地の人が安定して暮らしていけるような状況になるように協力したいと思います。
 水辺の集落では先住民の一家と交流することができました。「チョンカ」という伝統的な遊びや、釣りも体験できました。でも、そこの海は生活排水やトイレからの水、ごみなどがたくさんあってとても汚れていました。自然が豊かで貴重な動植物がたくさんいるけど、現地の人はあまり環境に興味がありません。
 私はこれから、マレーシアで学んだことをたくさんの人に広げて、どうすればいいかを考えてもらえるように行動していきたいです。環境問題が人ごとではなく、身近な問題ということを知ってもらいたいです。

外間美幸(東風平中2年)
野生のゾウや動物と出合い感動

 ボルネオ島にはキナバタンガン川が流れていて、流域には貴重な動植物が生息しています。ボルネオゾウやオランウータンなどを見ることができ、大きな喜びと感動を覚えました。そんなボルネオ島に環境問題などあるのでしょうか。でもそれはボルネオ島に到着して1時間ですぐにわかりました。車窓から見えるのは何分走ってもアブラヤシ、アブラヤシ。その量の多さに私は驚きました。そしてこのアブラヤシが私たちの生活と深い関係があることがわかりました。
 アブラヤシを原料とした食品や生活用品が身の回りにあふれていて、私たちの生活を豊かにしてくれます。しかし、このアブラヤシのプランテーションを作るために人々は豊かな森林を伐採し、そこに住む貴重な動植物・昆虫を簡単に犠牲にしてきました。私は初めプランテーションのために森林を伐採した現地の住民が悪いと思っていました。お金のことしか考えない嫌な人間だと思っていました。でも、現地で話を聞いたりしているうちに、本当に悪いのは現地の住民だけではないことがわかりました。いくら動物がかわいそうだからアブラヤシの製造をやめろと言っても、彼らには生活があり、仕事を失うことになります。さらに、プランテーションが増えているのも、アブラヤシでできた製品を使う人がいるからだと私は思います。自分が買う側、使う側にいると思うととてもショックでした。
 これから私がやるべきことは、マレーシアを救うための保護活動に携われたらいいと思います。少しずつでも周りの人と話をして、自分たちの生活で森が脅かされていることをみんなに伝えたいです。アブラヤシを原料としたものをなるべく使わないようにしたり、できることから少しずつ取り組んでいけたらいいと思います。

島袋健悟(高嶺中3年)
動物たちの生息地域減少を実感

 事前学習で勉強したアブラヤシのプランテーションの問題をマレーシアで目の当たりにしました。キナバタンガン川の流域では野生の動物を近くで見ることができましたが、すぐ隣にはアブラヤシのプランテーションが広がり、本当に動物たちの生息地域が減っていることを実感しました。
 日本は経済的に豊かな国となり、お菓子やアイスクリーム、化粧品、洗剤類などの原料になっているパーム油の輸入が増加しています。飽食と物があふれている日本の一方で、パーム油を輸出しているマレーシアは、アブラヤシの木を栽培するために森林が乱開発され、熱帯林が急激に減少しています。私たちの生活を支えている背景にはいろいろな問題が起こっています。「じゃあ、輸入をやめる」そういうわけにはいかないのが現実です。その商品を使っているのは僕たちだから、輸入をやめられたら大半が生活に支障が出るのは間違いないです。
 アブラヤシをなくす、そうすればマレーシアの農民に不満が出ます。だからといって、このままアブラヤシを増やすと動物たちの行動範囲が減らされ絶滅してしまうかもしれません。どちらか一方を取るわけにもいかないし、どちらかを消してもいけません。だから、人間の行き過ぎた栽培をやめ、バランスよく共存した方がいいと思います。植物などもやりすぎた栽培の先で、絶滅するかもしれません。だからうまくバランスを取らないといけないと僕は思います。
 この問いに答えはないと言われました。それなら、このような企画をきっかけに環境を知り、興味を持ち、意見を出し合い、少しずつ良い方向へいけたらいいと思います。日本に比べるとマレーシアは森林が多いけど、プランテーションで減らされています。なくなる前にしっかりと保護する必要があると思います。

記者同行日誌

考え方の違い学んだ隊員
特別報道チーム・金城珠代

 「沖縄でも同じようなことがあった」。ボルネオ島を離れる夜、小禄健人君(沖尚中2年)は、5年前から続けている野鳥観察での例を話し始めた。
 豊崎干潟の隣にあった小さな干潟が数年前に埋め立てられて駐車場になり、鳥が来なくなったという。外国の環境問題を、地元沖縄に当てはめて考える姿勢に感心した。
 ボルネオ島では、パームヤシ農園や木材の輸出が拡大し、貴重な動植物が残る原生林が切り倒されていた。しかも、マレーシアは経済も環境保護の取り組みもまだ発展途上の国。政府の環境保護対策に「動物と人間とどっちが大切なんだ」と反発する人もいるという。子どもたちは「環境について考え方が違うところがマレーシアの問題」「私たちの生活が森を脅かしていると伝えたい」と自分にできることを考えるようになった。その姿勢が今回の成果だと思う。