沖縄こども環境調査隊のシンポジウム「地球の声を伝えよう」(主催・沖縄タイムス社、共催・財団法人海洋博覧会記念公園管理財団)が13日、浦添市のてだこ小ホールで開かれた。今年の春休みと夏休みにアジア・オセアニア地域など4カ国を訪れ、環境問題などを調査した県内小中学生24人の隊員が報告。会場には父母や学校関係者ら約180人が参加し、6グループの隊員が発表する現地での体験談や環境問題への提言などに熱心に耳を傾けた。最後には隊員全員が舞台に上がり、「できることをひとつ一つ積み重ね、私たちにできることは何か、これからも調べ、考え、伝えていきます」と宣言した。シンポでは、海洋研究開発機構で深海生態系を研究する佐藤孝子さんによる講演やホタルの光を再現するサイエンスショーなどもあった。シンポジウムの内容を紹介する。

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調査隊に参加した小中学生全員で、身近な環境問題に取り組もうと環境宣言した=浦添市てだこ小ホール

 地元の少年少女たちと一緒に野生のウミガメ調査に参加したハワイチームは、子どもから大人まで協力し合ってウミガメの保護活動に取り組む姿に感銘を受けたことを発表。子どものころから意識を持ち「積極的にボランティアとして参加することの大切さ」をアピールした。
 一方「誰かがやるのではなく、自ら行動を起こす姿勢でなければ、自然を守っていくことは困難」と訴えたバリ・サンゴチーム。「ポイ捨てしない」「ごみを一日10個以上拾う」など、身近な自身の心がけが環境問題解決の糸口になるとし、周りを巻き込む活動につなげたいと主張した。
 バリ・マングローブチームも、深刻化するごみ問題などが要因でマングローブが減少している島の現状を痛感。「沖縄でも東村や西表島、漫湖公園などで見ることができるマングローブの大切さに気付かされた」と述べ、人間生活に密着したごみ問題の解決には、あきらめない意志と継続的な努力が必要だと説いた。
 また「自然環境の大切さを知ってもらうきっかけになってほしい」と、グアムチームはヤンバルクイナのニックネームを提案。「グアムではクイナをココと呼んでいた。僕らも親しみの持てる名前を付けたい」とし、安田地区で昔からヤンバルクイナを「アガチー」と呼んでいたことを挙げ「多くの人たちに広めていきたい」と呼びかけた。
 外来種対策への国や企業、市民レベルの取り組みを視察したニュージーランドチーム。街中の看板や空港など所々に、国民から愛されている「KIWI(キウイ)」の文字があることに触れ、「沖縄でも自然に興味を持ち、愛着を持つことで外来種、イヌやネコを捨てることも減る。自分の住んでいる地域の自然から学ぼう」とアピールした。
 森林の乱開発で、野生動物の減少や自然破壊の現状を目のあたりにしたマレーシアチームは「人間の都合で自然が消える。沖縄でも干潟が埋め立てられるなど同じようなことが起きている」と問題提起。「環境を守るために、自分で何ができるかを考えほしい」と問いかけた。

隊員発表

身近なことから直す
バリ・サンゴチーム

balisango.jpgバリ・サンゴチーム
 日本では400種類のサンゴ、沖縄では380種類のサンゴを見ることができる。サンゴは、魚や貝類のすみかであり、高い波を和らげる防波堤の役割を担う。
 バリの面積は、東京都の2.5倍。そこで、移植サンゴの様子をシュノーケリングで観察した。サンゴを移植したことで、たくさんの魚をとることができ、海もきれいになったと、地域の人はサンゴを移植したことを喜んでいるという。バリでは下水道の接続率が約3%と低く、使用した水はそのまま排出している。ゴミ処理施設でも、燃やさずに埋めている。危険なゴミの山で、私たちと同じぐらいの年の子が、換金できる缶などを探していた。
 視察を通じて学んでことは、「海は陸の恋人」。陸と海はつながっている。身近なところから、直せることがあれば直していくこと。


自然体で環境を守る
ハワイ・ウミガメチーム

hawai.jpgハワイ・ウミガメチーム
 なぜウミガメを保護しなければならないのだろう? 沖縄で身近に感じられるウミガメは、ほとんどが絶滅危惧(きぐ)種に指定されている。
 昔からハワイでは、ウミガメを神様のような存在だという。いろいろな場所にウミガメがシンボルとして飾られている。「ウミガメ休息中。接近禁止」という看板が至るところにある。
 今回、地元の生徒や調査員と一緒に、甲羅の大きさや体長、体重を調べて、タグをつけて海に戻す調査もした。僕らは調査を通して、ハワイでは子どもから大人まで、みんなが協力してウミガメを守っているということを実感した。ハワイの海岸には、ごみがなかった。ハワイの人たちにとって環境を守ることは自然体で当たり前のように感じた。僕らも、意識しないでも道や海岸をきれいにできるようにしていきたい。


論より「アクション」
ニュージーランド・外来種対策チーム

nz.jpgニュージーランド・外来種対策チーム
 ニュージーランドには、キウイというニワトリぐらいの鳥がいる。キウイフルーツの名前のもとになった鳥で、国のシンボルだ。翼は退化し、くちばしが長いのが特徴だ。
 天敵がいなく飛ぶことをやめたキウイなどの鳥は、ネコやネズミなど人間が持ち込んだ外来種の影響で、急激に数を減らしてきた。
 これら固有種を保護するため、カロリ野生動物保護区では、400人ものボランティアが運営を支えている。ネーティブ・バード・リカバリーでは、傷ついた野鳥を保護し、自然に返す活動をしている。年間およそ1300羽が保護されるそうだ。
 ニュージーランドでは国と企業と市民が連携して努力しており、保護活動の輪と規模の大きさに驚いた。
 私たちも、「論よりアクション」で行動していきたい。


もとに戻す責任ある
グアム・クイナチーム

guahapp.jpgグアム・クイナチーム
 グアムには、ヤンバルクイナと同じ飛べない鳥の仲間で、グアムクイナというかわいい小さな鳥がいる。野生のグアムクイナはすでに絶滅してしまっていて、人間が人工繁殖させ、再び自然界に戻そうという取り組みが行われている。
 グアムでは、ナンヨウオオガシラというヘビが、人間に持ち込まれて、あっという間にグアムクイナやほかの鳥、その鳥の卵やネズミなどを食べ尽くしたという。グアムにいた13種類の鳥のうち11種類も絶滅させてしまったそうだ。僕らは、マングースとヤンバルクイナの関係に似ていると思った。
 グアムクイナの放鳥も体験した。クイナを飼育繁殖させ、放鳥する活動を体験することで、それはとても大変なことだと感じた。でも人間が絶滅させてしまったので、人間がもとに戻す責任があると思う。


僕らみんなの問題に
マレーシア・自然との共生チーム

ml.jpgマレーシア・自然との共生チーム
 パームオイルの原産国で、今、何が起こっているのだろうか。
 パームヤシは、現地の人にとっては大切な産業だ。しかし、パームヤシをつくることは、自然を壊すことにもなる。現地には「私たちと自然、どっちが大切なの?」という意見もある。こうした難しい問題は、世界に住む僕らみんなの問題だ。
 森林がなくなったらどうなるだろう? 二酸化炭素がどんどん増え、地球温暖化の進行にもつながるだろうし、土砂崩れが起こったりもする。一番大きな問題は、動植物の住む場所を奪い、地球全体の生態系を崩すことだ。マレーシアの62%が森林で、そのうちの約6割が、二次林といって、人間が手を付けた森になっている。行き過ぎたパームヤシの栽培が、プランテーションをどんどん広げ、動物たちの行動範囲を狭くしている。


命の大切さ伝える
バリ・マングローブチーム

balimang.jpgバリ・マングローブチーム
 インドネシアのマングローブの総面積は450万ヘクタールで世界一。マングローブは、炭、建材などの産物を提供、陸地を海水による浸食から守り陸地からの汚染や土砂から海を守っている。また、微生物やカニなど多くの生き物にすみかを与えている。
 バリでは、生活のためにエビを養殖しているが、エビの養殖池がウイルスに犯されると、そこを捨て新しく養殖池を作り移動する。「海は悪いものが流れてくるもの」という意識があり、川にごみを捨てている。そのごみがマングローブの通気根にからまると死んでしまう。また、住宅や港をつくるためにマングローブ林が埋め立てられている。その結果マングローブが減少している。
 希少で貴重なマングローブを守っていくためには、多くの人に「生命のオアシスを作るマングローブの大切さ」を伝えていきたい。


LinkIcon環境宣言 (2009年9月13日)

講演

深海生物に優しい環境を
佐藤孝子さん(海洋研究開発機構・深海生態系研究)

satou.jpg佐藤孝子さん
 深海は、かつて砂漠のように生物がいないところだと考えられてきた。深い海には光が届かない。エサが少なく、寒く、水圧が高い。海藻も育たない。そこには、太陽の光に頼らなくても生きていける生物、ガラパゴスハオリムシなどがいる。
 深海を知るために、まず、「海とは」から始めてみよう。地球表面の約7割が海で、その平均の深さは3700メートル、だいたい富士山1個分だ。海藻や植物プランクトンが育たない深さが200メートル以上で、そこを深海という。すなわち、海のほとんどは深海なのだ。一番深いところは、グアムの少し南のマリアナ海溝で、1万950メートル、これは富士山3つ分の深さだ。
 私も4度ほど潜水船に乗って深海6500メートルまで潜ってみたが、深くなるにつれて、次第に心細くなっていった。人間は、陸上の生き物なのだろう。
 深海の生物の一つ、フウセンウナギの仲間のある魚は、深海の暗さに適応して、目が小さく、それに反比例するように口がとても大きくなった。エサと巡り合う機会の少ない深海で、自分の体よりも大きなエサでも食べられるように適応してきた結果だ。
 また、チョウチンアンコウも面白い。深海では、エサだけでなく、オスとメスが巡り合う機会も非常に少ない。それで、オスはメスに一度会ったら、そのままメスの体をかんで離さない。次第にそこに血管が通り、オスはメスの体の一部になる。出会った後は、一生をメスの体の一部として過ごす生物だ。
 これらの生物が発生している地球の声を私なりに二つにまとめてみた。
 まず、海の酸性化。海が酸性化するとクラゲも消えるか、について考えてみよう。温暖化ガスの増加―つまり二酸化炭素が増加すると―、それが海にも溶け込んで、海が酸性化する。酸性化した海では、炭酸カルシウムが溶けやすくなる。貝やサンゴなど炭酸カルシウムでできているものは、生きながらにして溶けていく、ということが起こる。貝には、ポリプと呼ばれるクラゲの赤ちゃんがつく。つまり、ある種の貝が消えると、アカチョウチンクラゲなど、そこに赤ちゃんを産みつけるクラゲが消えることになる。また、アカチョウチンクラゲにはいろんな生物仲間が集まって生きているから、これらクラゲが消えると、多くの生物のすみかやエサがなくなることになる。生態系の危機であると言えるだろう。
 次に、深海に蓄積されたゴミを考えてみよう。6500メートル潜ったところに、マネキンの首、レジ袋、ドラム缶や冷蔵庫が落ちている。これらは、1年後に行っても、まだ全然分解されずにそのままの状態で残っていた。
 現在開発が進んでいる生分解性プラスチックも、深海では分解しにくい。陸上の環境に優しい素材だけでなく、深海の生物にやさしい素材、深海バイオの開発をしてもらいたい。これらが、私が深海の生物から取り上げた地球の声だ。


サイエンスショー

ホタルの光を人工的に再現 
サイエンスショー

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 サイエンスショー「ホタルの光を手のひらに」(提供・リバネス)では、ホタルの光を人工的に作ってみる実験が会場に訪れた全員で行われた。また、研究員とともに、ホタルの成長過程をクイズ形式で学ぶなどして、身近な自然について理解を深めた=写真右。
 「ホタルは、いつから光っているでしょう-?」。博士役のリバネス研究員二人が、舞台から会場にクイズを投げ掛ける。卵のときから光っていることを示す映像がスクリーンに映し出されると、会場の子どもたちからは「おぉ」という歓声が上がった。
 実際にホタルの光を人工的に作ってみる実験では、ルシフェリンと、ルシフェラーゼという光の基を助ける酵素が入った2つのカプセルが会場全員に手渡された。明かりを落とした会場内で、「せーの」という合図とともに、参加者全員がカプセル液を混ぜ合わせると、暗闇の中にたくさんの小さな光が浮かび上がった。博士役の川名祥史さん(環境学博士)は、「まずは、生き物を知ることから始めよう。生き物を知ることで、周りの環境に目を向け、自然の大切さを感じてもらえたら」と呼び掛けた。


海と川の水質調査に挑戦
環境実験ブース

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 「沖縄の海や川、どれくらいきれいだろう」。普段何げなく見ている海や川の水質、植物の働きを視覚的にとらえてもらおうと、会場入り口には環境実験ブース(提供・リバネス)が設置され、訪れた親子連れを楽しませた。
 「海・川の水質調査に挑戦!」のブースでは、波の上ビーチ、比謝川など、川・海の水サンプル30種を用意。参加した小学生らが、採取されたサンプルに酸化剤を加え、水質を調べる調査が行われた。酸化剤が加えられた水のサンプルは、数分すると、有機物の多さに比例して色が変わる。示された色が、水質の汚染度を測る一つの指標になるというものだ。子どもたちは、「思ったよりきれい」「汚れているー」などとはしゃぎながら実験を楽しんでいた=写真下。
 「空気を知る二酸化炭素測定に挑戦!」のブースでは、アクリルの透明な箱に入れた観葉植物を、数時間日光に当て、箱の中の二酸化炭素濃度がどう変化するかを測定した。1時間もすると、植物の光合成により、箱の中の二酸化炭素濃度が減少しているのが分かった。実験に参加した新井裕也くん(9)=仲井真小3年=は、「植物が二酸化炭素を吸って、酸素に変えていることが本当だと知って、楽しかった」と喜んだ。


協力企業
LinkIconリバネス