2009年09月10日 【朝刊】

マレーシア編(上)
原生林が巨大農園に

 県内の小中学生が海外の環境問題を視察する「沖縄こども環境調査隊」の第5陣は8月23日から29日までの7日間、マレーシアのボルネオ島を訪問。中学生4人がオランウータンなどの貴重な野生動植物やパームヤシ農園を観察し、森林伐採の現状を学んだ。
 2日目、ボルネオ島北東部にあるサンダカン空港に降り立った4人はバスに乗り換え、川沿いに原生林が残るスカウを目指した。目的地までの3時間、窓の外には広大なパームヤシ農園が続いた。「飛行機から見えた緑はヤシだったんだ」。いろいろな動植物が生息するジャングルを想像していた沖縄尚学中2年の小禄健人君(13)は、原生林が伐採されて農園が造られていたことにがくぜんとした。
 マレーシアでは1970年ごろからパーム油の大量生産が始まり、今ではインドネシアと合わせると世界中の使用量の85%をまかなうまでに成長。食用油や洗剤、ろうそくなどの原料としてヨーロッパやインドを中心に日本へも輸出されている。東風平中2年の外間美幸さん(14)は「私たちの生活がマレーシアの自然を脅かしている」とショックを隠せない。
 農園の周囲は野生動物が出入りできないよう電線が張り巡らされていた。現地を案内した自然ガイドのベンジャミン・マナギルさんは「農園が森を区切ってしまった。野生動物が繁殖していくには狭すぎる」と強調した。
 現地では100ヘクタールの農園を運営すると月3万リンギット(約90万円)の利益が出るという。マレーシアの平均世帯収入3250リンギット(約9万8千円)のほぼ10倍だ。「自分ならお金が欲しいから(持っている土地)全部農園にするかもしれない」。高嶺中3年の島袋健悟君(14)は島で生活する人たちに気持ちを重ねた。「森と人間のどちらかだけを守っても片方が困る。バランスが大事なんだ」と野生動物と人が共存する必要を感じた。(特別報道チーム・金城珠代)

路肩のヤシの実.jpg

スカウまでの道中、路肩に落ちていたヤシの実を観察する調査隊=8月24日、ボルネオ島

2009年09月11日 【朝刊】

マレーシア編(下)
野生動物とどう共存

 スカウに到着した調査隊は川岸に原生林が残るキナバタンガン川をボートで探検。4人の目の前にはオランウータンや島固有種のテングザル、ボルネオゾウなど絶滅の危機に直面している野生動物が次々と姿を現した。高嶺中3年の島袋健悟君(14)は「こんな近くで見られるなんて…。圧倒された」。ボルネオ島ではパームヤシ農園の拡大などで森林伐採が進み、野生動物は残されたジャングルに追い詰められていた。
 調査隊は4日目、サンダカンに戻り、親を失ったり負傷したりしたオランウータンを保護して野生に返す活動をしているセピロックオランウータンリハビリテーションセンターを訪れた。同施設は4300ヘクタールの自然保護区内にあり、動物たちは施設と森を自由に行き来できる。現在は60~70頭が訓練を受けているという。
 子オランウータンが食事する様子を観察した東風平中2年の外間美幸さん(14)は「一人で寂しそう。人間がヤシ農園を作ったりして森を切ったのが原因だと思う。廃油せっけんを作ってパーム油を使う量を減らしたい」と自分にできることを考えた。
 ボルネオ島では分断された森を「緑の回廊」でつなぐプロジェクトがサバ州政府や国際協力機構(JICA)、自然保護団体を中心に始まっている。「行政は環境問題を重視し始めているが、地元住民の中には人間と動物どっちが大切なのかという意識が根強い」と自然ガイドのベンジャミン・マナギルさんは発展途上国が抱える問題を代弁した。
 大宜味中1年の山城真紀さん(12)は「マレーシアは自然がいっぱいあるけど、環境を守ることに興味がない人もいる。考えが一つにまとまらないところがマレーシアの問題だと伝えたい」と決意。沖縄尚学中2年の小禄健人君(13)は「森を守るのも、現地の人たちの生活を守るのも大事。複雑で答えが見つからないけど、できることを探したい」と思いを強くした。(特別報道チーム・金城珠代)=おわり

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ボルネオ島のジャングルを歩き、多様な生き物を観察する環境調査隊の4人=8月25日、ボルネオ島スカウ