インドネシア・バリ島では、豊かに広がるサンゴの群落を確認した。県内の研究者が技術指導にかかわり、開発で失っていたサンゴを取り戻したクタ海岸。シュノーケルを着けて潜った隊員たちは、魚が群れる様子や30種以上のサンゴが息づく様子に、感激しきりだった。地元の漁師から、サンゴがよみがえったことで魚が増え生活が潤ったこと、自然に対する価値観が変わったことも聞き、人間と自然の共生の在り方も考えた。ごみの最終処分場や下水処理施設など、環境に関するさまざまな施設も訪問。海と陸のつながりを実感した。

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お供え物づくり・お供え物「チャナン」を作り、笑顔の隊員4人。「チャナン」は路上や店先などに、毎日欠かさず供えられていた=8月5日、トレジャーアイランド

【バリのサンゴの現状と課題】
 2年前と10カ月前に2度の移植で植え付けたサンゴの面積は1ヘクタールにも及び、一面サンゴがぎっしり生えていました。地元の漁師はサンゴを移植してから海水の濁りが減り、魚が多くなったと話していました。移植されたサンゴは枝状のサンゴや葉状のサンゴ、塊状のサンゴなどいろいろな形状のサンゴが使用されており、サンゴの移植技術はほぼ完成の域に達しているといえます。今後はこのサンゴの群落をどのように維持していくかが課題となります。サンゴの病気の対策、サンゴの捕食者の対策(特にオニヒトデやシロレイシガイダマシなど)、陸から流れ込むごみや繁茂した海藻が絡まった場合の除去作業も必要になります。毎年多くの卵や幼生が周りに供給されるので移植した周辺の自然岩盤でのサンゴ礁の回復も早まることが期待できます。(アクアコーラル企画 屋比久壮実)

隊員レポート

上原由莉子(慶留間小6年)
地球への思いやり気付かされた

 「私には何ができるだろう」
 バリから帰国してすぐ、1992年のリオ環境サミットでスピーチをしたセヴァン・スズキさんを思い出しました。わずか12歳で、環境サミットに集った各国の代表に対し、環境保全の「実行」をせまった伝説のスピーチを行ったセヴァンさんを思い出し、彼女の本を読み返してみました。そして行動に移すことから始めてみようと思いました。
 きれいに見える海でも、よく見ると、無数のごみが打ち上げられていることがあります。私は、趣味であるシュノーケリングを10分早く終わらせて毎日ごみ拾いをしようと思います。そしてごみを分別するだけでなく、いらないものを減らしていこうと思います。
 そして、伝えていきたい。人間は自然に生きているのではなく、自然に生かされていることを。自然はつながっていることを。大人任せにしていては間に合わないほど、山や川、動物たちが、悲鳴をあげることもなく人間の犠牲になっています。そのことを伝え、一緒に行動してほしいです。バリでの視察を通じて、私は多くのことを感じ、学ぶことができました。
 豊かさや便利さを追求し続け、地球への思いやりを忘れてしまっていることを反省し、これ以上地球を破壊してはいけないと感じました。汚水の処理技術や崩壊しかけていたタナロット寺院の護岸補強など、バリにおいても日本の多くの環境技術が導入されていることを知り、誇りに思うことができました。
 環境は世界共通の問題です。環境問題は、便利さの上に成り立っている私たち人間の日常生活と深くつながっています。私たちが感じている便利さ、快適さの一つ一つが実は、自然のサイクルを乱す原因になっていると思います。

下地宮代(宮古島市北中1年)
身近な人へ自然の大切さ伝える

 私は、沖縄こども環境調査隊の一員としてバリ島でサンゴをメーンテーマとして調査を行いました。
 一つ目にわかったことはサンゴについてです。シュノーケリングで海に入り、サンゴを観察しました。サンゴはたくさんあって、いろいろな色、種類があり、お花畑みたいでした。サンゴを見るのは初めてでしたが、思ったよりきれいだったので少し驚き、感動しました。
 シュノーケリングの後、漁師や環境技師のプラスさんの話を聞きました。サンゴを移植した後、魚が増えたことや、水の透明度もあがったことなどを話してくれました。サンゴは環境や人々にとってよいことをしてくれることがわかりました。またバリの海にはオニヒトデもいない、台風も来ないので、サンゴにとっては適した場所であることがわかりました。移植したサンゴは90%が生き残る、また沖縄のサンゴの2倍の早さで成長することなどがわかりました。
 県内の勉強会ではサンゴが持つ役割について学習しました。サンゴ礁が、多くの魚のすみ家となったり、強い波を和らげる防波堤の役割を果たしていることなど、私たちの生活に深く関わっていることを知りました。
 バリ島では、初めて見たり、聞いたり、体験したことがたくさんありました。サンゴのよいところがわかってよかったです。そして環境を守ることは、一人一人が協力し合い、幅広く行動することが大切だと思いました。
 これからは家族、身近な人へ、バリのサンゴなどについて伝えていきたいと思いました。バリ島で学んだ事は、私にとってよい勉強になったと思いました。
 今後は「電灯をつけっぱなしにしない」「ポイ捨てをしない」など、自分でできることに取り組んでいきたいと思います。

新垣かれん(屋我地中3年)
自分なりに取り組めることから

 「サンゴを守るためには海だけでなく、山や川なども守っていかなければならない」
 私たちバリ島サンゴチームは、メーンテーマとなる移植したサンゴの観察だけにとどまらず、下水道処理施設やごみの最終処分場などを見学しました。
 視察でごみ処理施設を訪れた時、焼却施設がなく、たくさんのごみがそのまま山のように積み上げられているのを見ました。そのごみ山の中で、小さな男の子がお金になるものを探している姿を見た時には、強い衝撃を受けました。
 人口が増加しているバリではごみは大きな問題です。このごみを少しでも減らすためには、国が焼却施設やリサイクル施設を一日でも早く整備することが重要だと感じました。
 視察を通じて、私は「大切なものを、失ってから気付いても遅い」。だからこそ「今あるものを大切にしていかなければならない」と痛感しました。
 バリはサンゴの移植などで高い成果を上げています。このようなバリで取り組まれている環境活動を参考に、沖縄でも施行錯誤を積み重ねていけば、きっと環境保全に大きな成果が得られると思います。
 私個人としても、まず自分でできること小さなことから始めていきたいです。例えば「洗剤を使いすぎない」「ごみを減らす」など、自分なりに最低限取り組めることから努力していきたいです。今回の視察を通じて、私自身の価値観も大きく変わりました。私は地元・屋我地中学校の生徒会長をつとめています。生徒会活動でも、学校の伝統として長年続いているマングローブ植樹など、地球環境を守るためにできることを考え、実行してきました。バリで学び、体験したことを私の後輩たちにも伝えていきたいです。調査隊の経験は、私の人生にとっても宝ものの一つになっています。

泉香菜子(室川小6年)
目の前に広がるサンゴ礁に感激

 バリ島への出発前、私たちの調査隊は時間をかけてサンゴについて学び、初めて訪れる国バリについて、どんな国だろうかとわくわく想像していました。
 家族と離れる不安もありましたが同時に、環境について学ぶ調査隊の任務を果たすんだという責任感を感じていました。
 バリ島サンゴチームの最大の任務は、移植されたサンゴを観察することです。シュノーケリングを使ってクタビーチのサンゴ観察を行った日、私は沖縄で学んだことを思い出しながら、海へ飛び込みました。
 シュノーケルを使うこと、沖合で泳ぐこと、何もかもが初めてだったので、すごく緊張しました。
 同行した屋比久壮実先生によると、移植は岩に小さいサンゴの枝をくっつけたものだそうですが、移植したサンゴは成長が早く、わずか2年で岩の表面を覆いつくすほど成長していました。
 目の前に広がる、サンゴ礁を見たとき、うれしさで心臓の動きが速くなるのを感じました。
 その後、お話を聞いた現地の漁師イワヤン・グリさんによると、サンゴを植えたことで魚が増え、漁師の生活がよくなったことはもちろん、海の環境も改善したことなどがわかりました。
 バリの町を見たとき、オートバイが突っ走っていたり、ごみの山があったりと人々が環境問題をしっかりとらえながら生活を送っているとは思えない一面もありましたが、サンゴやマングローブを増やそうと努力している人々がいることに感銘を受けました。
 初めて自分の目で外国を見たことで、地球に住んでいるみんなが手を取り合い協力する事が必要であり、一人ひとりが環境を守るための行動をとらなければいけないと気持ちを強くしました。

記者同行日誌

日重ねるごとに頼もしさ
社会部・嘉数よしの

 研修が終盤に差し掛かったころ、上原由莉子さん(慶留間小6年)が、移動の車内でデジタルカメラに収めたこれまでの視察地を見返していた。ハードスケジュールで、疲れていたはず。なぜずっと写真を見ているのか尋ねると、上原さんはこう答えた。「環境問題って、よく考えたらつながっているんだな、と思ったから。今まで見てきた所の写真を見て思い返していた」。その言葉に、うれしさと頼もしさを感じた。
 隊員たちにとってこの研修は初めての体験ばかりで、戸惑いや緊張の連続だったと思う。だが、日を重ねるごとに、なぜこんな問題が起こっているのか、自分には何ができるだろうか、と考えるようになっていった。隊員たちの報告から、その成長が伝わるだろう。
 帰国後のあいさつでは、4人全員が同じ決意を語った。「みんなに環境問題を分かってもらえるよう、自分が伝えていきたい」