ハワイに派遣された環境調査隊の中学生4人は、絶滅危惧(きぐ)が指摘されているウミガメの保護や、自然体験をテーマに1週間の日程でオアフ島とハワイ島を訪れた。ウミガメ保護政策について座学で学んだ後は、現地の中学生と野生のウミガメの生態調査に参加。ハワイ火山国立公園では、噴煙が立ち上る巨大な火山口を見学し、マウナ・ケア山の中腹からは満天の星空を仰いだ。移動の疲れと緊張からか、ややもすれば用意されたプログラムに受け身だった生徒たち。日程の後半から徐々に言葉と笑顔がはずんだ。

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ウミガメの生態調査に取り組んだ環境調査隊と地元の生徒たち=8月9日、ハワイ島・コハラ海岸

【ハワイのウミガメの現状】
 ハワイの沿岸にはHonu(ホヌ)と現地で呼ばれるアオウミガメが人の近くで悠然と暮らしている。約30年に渡る手厚い保護の結果であり、今では個体数も増え、襲われれば逃げることのできない陸上で日光浴をしている姿を見ることもできる。また、沖合に出るとアカウミガメやオサガメも来遊している。沖合ではカジキやマグロを狙った漁具にウミガメが誤って掛かることがある。ハワイの野生動物保護の真剣さは混獲と呼ばれるこうした事故を減らすため、2001年にはカジキ延縄漁そのものが休止されたことからも知ることができる。現在では漁業者の努力もあり、漁具の改良などで混獲はほとんどなくなっており、世界的な成功事例の一つである。(日本ウミガメ協議会・研究員 石原孝)

隊員レポート

喜納ももこ(北中城中2年)
ウミガメの保護にみんなが協力

 ハワイの人にとってウミガメは、地球の代表のような存在で、守り神としてとても大切にされてきたと聞きました。ウミガメが出てくるおとぎ話もたくさんあるそうです。私がハワイのウミガメを見て、初めに驚いたのは、カメが人を怖がらないということです。それは、ハワイの人たちが昔からウミガメを大切にしてきたからだと思います。
 ウミガメが減少している理由の一つに「はえ縄漁」というのがあるそうです。その漁は、メカジキやマグロが中心で、日本でも行われています。しかし、メカジキ漁によくアカウミガメがかかってしまい、1990年代には、年間で約400頭もかかってしまったと聞き、ショックを受けました。でも、ウミガメを守るために、法律ではえ縄漁が停止した年もあり、針の型を変えたりと、いろいろ工夫したら、網にかかるウミガメが20頭までに減ったそうです。ハワイの人たちがウミガメを守り、大切にする気持ちはとても強く、すごいなあと思いました。
 それから、地元の中学生と一緒に、ハワイ島のコハラ海岸で、野生のアオウミガメを捕獲し、計測やタグ付けなどを行いました。私は、野生のウミガメを見るのは初めてで、最初は怖かったけど、少しずつ慣れるとさわれるようになりました。思ったより力が強く、驚きました。ハワイでは、野生のウミガメを勝手に触ることは法律で禁止されているので、私たちはとても貴重な経験ができました。
 私は環境調査隊での経験を通して、ハワイの人たちが真剣にウミガメのことを考え、たくさんの人が協力し合っているということを周りの人たちに伝え、自分に何ができるかを考えて行動していきたいです。そして、沖縄もハワイのように野生のウミガメが普通に見られて、動物と人間が共生していける島にしたいです。

亀島淑志(古堅中1年)
やっぱり自然はすごいと思った

 視察した米国西部太平洋区漁業管理評議会では、ウミガメがいかにハワイで大切にされているかを学びました。ウミガメがあみ漁やはえ縄漁にかからないように工夫していることや、2001年に混穫の増加によって法律ではえ縄漁が禁止になったこと、漁師と一緒になってウミガメを傷つけたりしないような針を考えたりしていることにも驚きました。
 滞在3日目は、一番楽しみにしていたハワイ島でのアメリカ海洋漁業局(NMFS)によるウミガメの生態調査に参加しました。このプログラムは、めったに体験できないプログラムで、NMFSのウミガメ調査リーダー、ジョージ・バラーシさんの指導で、浅瀬にいるアオウミガメを大きな網で1匹ずつ捕獲しました。僕は、ウミガメを見つけて報告し、捕まえてもらったり、計測やタグ付けをするときにウミガメを押さえたりする役割でした。
 沖縄ではあまり見ることができないウミガメも、ハワイにはこんなに野生で見ることができることに驚きました。昔からウミガメは神様みたいな存在で、ウミガメが陸に上がっている時は3メートル以上近づいてはいけない法律や、ウミガメに触ったら1万ドルの罰金があり、とても大切にされている証拠だと思いました。
 星空ツアーにも参加しました。日本の富士山よりも高いマウナケア山に車で登り、望遠鏡で天の川を見たり木星を見たりしました。天の川を望遠鏡で見たら、星がひとつひとつ輝いていてとても感動しました。
 ウミガメの体験や星空ツアーを通して、やっぱり自然はすごいと思った。絶滅危惧(きぐ)種の個体数が、また徐々に増えていけるよう人間が努力していかなくてはいけないと思いました。そのためには、自然保護に興味を持ち、子どもも大人も一緒に環境について考える必要があると思います。

砂川美穂(大浜中1年)
人々の気持ちが環境守る第一歩

 私がハワイで一番興味を持ったのはHPA(ハワイ・プレパラトリー・アカデミー)との、野生のウミガメの生態を学び捕獲・標識付け・計測そして放流するという体験です。
 ハワイには、HPAに所属しているこどもたちが大勢います。そのこどもたちと一緒に協力してネットで捕獲しました。中には栄養失調でやせているウミガメが何頭かいて、すべてのウミガメが必ずしも健康ではないと言うことも知りました。
 その日は、HPAの生徒たちと協力し、12頭の野生のウミガメを捕獲・標識付け・計測・放流しました。
 初めて野生のウミガメに触り、持ち上げ、押さえたりしながら標識を付け、計測をしたのですが、暴れるウミガメは、とても重く力も強いので、とても苦労し大変でした。ウミガメに「元気に育ってね」という強い思いで放流しましたが少し寂しかったです。
 ハワイでの1週間、私が思ったこと、感じたことは、ハワイの人たちが、ウミガメを、とても大切に思っていること。そして、私たちと同じくらいのこどもたちが、参加して大切なウミガメの保護にあたっていること。そして一人一人が環境について、とても熱心に考えていることです。
 もう一つは、実際に自分の目で見て、触れることの大切さを学びました。
 この地球には多くの絶滅危機にさらされている動物たちがいることを知り、沖縄にも環境について多くのこどもたちが参加できる活動が、どんどん増えてほしいです。そして人々の守りたいという強い気持ちが、この地球、この沖縄を守っていける第一歩ではないかと思いました。
 私が見たことや体験をしたことを多くの人々に伝え、地球上に住む動物や植物、すべての生き物がいい環境で育ち、生きていけたらいいなと思いました。

前三盛敦貴(石垣第二中2年)
カメの生態 驚きと不思議の連続

 僕たちはまずウミガメと漁業がどのようにかかわりあっているのかということを、米国西部太平洋区漁業管理評議会で学びました。アカウミガメがはえ縄漁にかかって死んでしまった例が他のカメに比べて、とても多いことに驚きました。こんなにたくさんのカメがかかって死んでしまうと、数が減ってしまうのもわかる気がしました。
 ほかにも、ウミガメを保護するための法律があることも知りました。そのおかげで、今ではウミガメの数が増えているそうです。しかし、ウミガメが増えることでエサである海藻が減ってしまい、それを食べる魚が減っているそうです。ひとつだけを守ろうとすると、どこかに必ずひずみが生じます。生態系が崩れるということはとても怖いことだと思いました。
 2日目はハワイ島へ移動して、キホロ湾で普段のウミガメの生活について学びました。近くの池のようなところで、なぜかはまだわかってないそうですが子供のカメ同士夜になると集まって寝ているそうです。ほかにも日本では見ることのできないバスキング(甲羅干し)をしていたり、自分から近づいてきたりと驚きと不思議の連続でした。3日目はコハラ海岸の浅瀬で野生のウミガメを捕獲し、計測をして調査用のマイクロチップをいれて放流する作業をしました。普段体験することのできないことができてとてもよかったと思います。大きいカメの中には以前マイクロチップを埋めたものもいて、前の時と大きさを比較したりしていました。一緒に作業をしたHPAの生徒はこういう調査には慣れていて、ウミガメ保護のために頑張っていました。
 ハワイでは子供から大人までみんなが協力してウミガメを守っているということがわかりました。沖縄でも全員で環境を守っていけるといいと思います。

記者同行日誌

自分にできること考えて
特別報道チーム・粟国雄一郎

 調査隊が最初に訪れた米国西部太平洋区漁業管理評議会。「日本は地域ごとにウミガメとのかかわり方がある。沖縄で、自分に何ができるか考えてほしい」。ウミガメ保護と漁業規制の調整をしている石崎明日香さんはそう語っていた。
 石崎さんの言葉は、今回の調査旅行の意義を考える大きな道しるべだったと思う。生徒たちには初めての外国訪問。ウミガメ保護のテーマにはとどまらない、日本や沖縄、そして自分自身を見つめ直す絶好の機会になったことだろう。
 野生のウミガメが泳ぐハワイ島の海岸で、生徒の一人は「川平湾の方がもっときれい」と気づいた。世界有数の天体観測地で満天の星空を仰ぎ、「同じぐらいきれい」と西表の夜空を回想した生徒もいた。
 生徒たちには、世界の中の沖縄で「自分たちができること」を志すきっかけにしてほしい。

協力
LinkIcon日本ウミガメ協議会