命のバトン、未来へ

ヤンバルクイナ放鳥.jpgNPO法人どうぶつたちの病院は、事故に遭ったヤンバルクイナを治療し、野生に復帰させる活動にも取り組んでいる(NPOどうぶつたちの病院提供) 沖縄タイムス社が実施する環境学習ツアー「沖縄こども環境調査隊~地球の声を伝えよう」に向け、NPO法人どうぶつたちの病院ヤンバルクイナ保護プロジェクトリーダーの長嶺隆さんに、絶滅の危機にさらされているヤンバルクイナの保護活動について聞いた。また、日本ウミガメ協議会会長・東京大学大学院客員准教授の亀崎直樹さんに「ウミガメの今」を書いてもらった。
 同ツアーは沖縄タイムス創刊六十周年事業の一つ。地球規模の課題となっている環境問題について考えてもらうため、小学五年生―中学二年生をインドネシアをはじめ六カ国別に派遣する。作文審査後の面接を通して二十四人を決定する。募集締め切りは一月三十一日。


沖縄に集まるウミガメ
保護には各国の協力必要

亀崎直樹さん
日本ウミガメ協議会会長・東京大学大学院客員准教授

亀崎直樹.jpg亀崎直樹さん 日本ウミガメ協議会会長・東京大学大学院客員准教授
 沖縄の海にはウミガメがたくさん住んでいます。沖縄ではよく見かけるウミガメですが、世界中では絶滅が心配されてます。世界では少ないのに、沖縄ではよく見かけるのは、沖縄の海はウミガメにとって大切で、そこに集まっているからです。
 沖縄の海でよくみるウミガメはアオウミガメとタイマイです。インドネシアやマレーシアなどの熱帯の海にもいます。沖縄の近くには、甲の長さが三十センチぐらいに育つとやってきて、ここで餌を食べて成長します。この大きさではまだ子供です。人間ならば幼稚園に入る前くらいです。
 アオウミガメは草食性なので海藻を主に食べ、タイマイはサンゴ礁のすき間に生息しているカイメンという動物を食べています。アオウミガメやタイマイの産卵も沖縄の島々では行われていますが、沖縄のウミガメたちが、どこで生まれたかは分かっていないので、これから調べる必要があります。
 一方、沖縄の海に子どもはいないのに、産卵にやってくるウミガメがいます。アカウミガメです。ウミガメの中では熱帯ではなく温帯に住んでいるカメです。頭でっかちでかわいくない、という人もいますが、このウミガメが最も数が少ないといわれています。なぜなら、北太平洋では日本しか産卵しないからです。
 日本の砂浜は沖縄に限らず自然破壊が進んでいます。砂浜が狭くなり、波で卵がさらわれやすくなっています。しかも、アカウミガメの赤ちゃんは日本で生まれると、黒潮という海流にのり、ハワイの北を通って、アメリカ大陸に近いメキシコの沖で育ちます。そこに、アカウミガメの餌となるエビやカイの仲間がたくさんいるのです。そこで大きく育つと、一万キロ以上も太平洋を泳いで、産卵のために日本へ戻ってくるのです。
 ウミガメを保護するには回遊する世界の国と協力する必要があります。アオウミガメやタイマイの保護はインドネシアやマレーシアなど東南アジアなどの国々と、アカウミガメは子ガメが流れていくハワイやメキシコと協力して、保護活動を行っています。
 保護にはいろいろな方法がありますが、大切なことは、まずはしっかりと観察してやることです。ウミガメが何で減っているのかをしっかり調べる必要があります。減っている原因が分からないのに、手を出すことは、場合によってはウミガメの迷惑になっているかもしれません。
 皆さんはウミガメがたくさんすんでいる沖縄にすんでいます。彼らのおかれた状況を、世界各地でしっかり観察して、保護するには何をすべきか考えてほしいと思います。


やんばる、生態系の危機
地域の財産引き継ぐ責任

長嶺隆さん
NPO法人どうぶつたちの病院
ヤンバルクイナ保護プロジェクトリーダー

長嶺隆.jpg長嶺隆さん NPO法人どうぶつたちの病院 ヤンバルクイナ保護プロジェクトリーダー
 沖縄、特に本島北部のやんばるの森には、多種多様な生き物がいて、世界的に貴重な生態系をつくっている。肉食獣などの絶対的に強い存在がいない中で、うまく共存してきた。日本国内で唯一の飛べない鳥、ヤンバルクイナはそんな野生生物たちの代表選手だ。
 しかし、今、この生態系が人間によって持ち込まれた外来種のネコやマングースに脅かされている。世界中の飛べないクイナの80%は、外来種と環境改変が原因で絶滅の危機に瀕している。ヤンバルクイナも同じ道をたどっているということを子どもたちに伝えたい。
 グアム島では、一九八一年に約二千羽いたグアムクイナが、外来種のヘビ、ナンヨウオオガシラに食い尽くされ、わずか五年で二十羽まで減ってしまった事例がある。その後、人工増殖に成功した事例として有名で、学ぶべき点も多い。
 一方で、野生に返してもすぐにヘビやネコに食べられてしまうため、苦労している。スタッフは精力的に取り組んでいるが、地域住民の参加がほとんどない。外来種問題の解決には、地元の参加が不可欠だと、考えさせられる。
 ヤンバルクイナの場合、地域、専門家、行政が手を携えて取り組んでいるのが特徴だ。どんな先進的な技術があっても、そこに住む人々の参加がなければ、野生生物保護は成功しない。
 沖縄の先人たちは自然と共生し、野生生物を絶滅させずに後世に引き継いできた。今生きている私たちにも、これらの財産を残していく責任がある。ヤンバルクイナ一種だけでなく、生態系全体を残していく努力が必要だ。
 人口百二十七万人もの島で、多くの生き物が生息できる環境を守ってきたことは奇跡に近い。
 子どもたちには海外の現状を自分の目で見て、対比することで、自分たちが住む沖縄の素晴らしさを感じてほしい。そして、自分に何ができるかを考えてほしい。(談)